傘と文化との関係

世界の“傘の迷信”

皆さんは傘に関する迷信を何か知っていますか?
傘は、雨が降った時に使う雨傘や、太陽の下で使う日傘などいろいろな時に利用されますね。
傘は古代から利用されてきた歴史あるアイテムですので、昔から伝わるいろいろな迷信が世界にはあります。
今となってはふーんというものも含めて、世界の国々における傘の迷信について調べてみました。

ちなみに「迷信」とは

現代の科学的見地から見て不合理であると考えられる言い伝えや対象物を信じて、時代の人心に有害になる信仰
断片的に民間に残存し退化した呪術(じゅじゅつ)的・信仰的な心意現象や慣行。呪術,禁忌,卜占(ぼくせん),民間信仰の断片,諺(ことわざ),前兆予知,となえ,民間療法,幽霊,妖怪,憑物(つきもの)など。社会的に実害の大きいものを迷信という

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典、その他より

迷信1「家の中で傘を開くと不幸になる」

おもにヨーロッパで伝えられている「傘を家で開くと不吉になる」という迷信の由来は比較的新しく、しかも実際的な理由からできたようです。
金属製の傘の骨がついた傘が雨の日にふつうに見られるようになったのは18世紀のロンドンですが、そのころの骨はとても固く粗末な作りで、家の中で開くととても危険なものだったとのことです。
もし突然、堅い金属製の骨がついた傘を小さな部屋で広げたら、周りの人にけがをさせたり、部屋に置いてある物を壊してしまうかもしれなかったため、そのような事をさせないために迷信が作られたよう。

一部の人々はこの迷信に対し、「傘を頭より上にあげなければ問題ない」、とも言っているそうです。

迷信の背景となる昔からの言い伝え


傘に対する不吉な迷信の元祖はエジプト人です。
エジプトで傘が使われ始めたのは約4,000年前といわれています。
パピルスとクジャクの羽でつくられた傘は宗教的な意味を持っていて、高貴な人の日傘としてつくられたものでした。

古代エジプトでは、大空は天空の女神ヌトの体によってできていると信じられていました。
上の図のように女神ヌトは胴体をぐっと伸ばして天空を傘のように覆っていて、手の先とつま先だけを地面につけていると考えられていました。
そして傘はこの天空の女神ヌトを人間が形に表したもので、高貴な人の頭上を覆う場合にだけふさわしいとされました。
だからこの傘によってできる影は神聖な物であり、たとえうっかりでもふつうの人がその陰に踏み込んだりしたら神に対する冒とくであり天罰が下ると恐れられました。

しかしながらその後、バビロニア人は違った解釈を行い、王の日除けの陰に足を踏み入れることは名誉とされたそうです。

また、本来の日除けと太陽との関連から、太陽光線がささない場所で傘を開くのは不吉であるという説が生まれました。
これは太陽そのものを怒らせることになるかもしれないからです。ここから家の中で傘を開くと不幸になる、という迷信が生まれていったと考えられます。

迷信2「家の中で傘をさすと運が開けぬ」

日本にも「家の中で傘をさすと運が開けぬ」という迷信があります。
その由来の背景として、江戸時代の浪人は副業として傘張りの仕事をしていました。
傘張りをする理由として、傘が頭の上にさすもので足で踏まれる草履編みとは違うということと、傘が高級品であるということが浪人の武士としてのプライドを保っていたからだそうです。

本来傘は雨や日光を避けるために外でさすものですが、庶民には、そう簡単に手が届かない高嶺の花です。
そんな傘を本来の目的でなく開くなど粗末に扱うようでは、出世もできぬという意味からとのことです。

迷信3 「天気が良いのに外で傘をさすことは賢明ではなく、雨の原因になる」

「天気が良いのに戸外で傘をさすことは賢明ではなく、雨の原因になる」
こちらも本来の目的ではない場所で傘を開くことはいけない、という意味から発生したのではないかと思われます。

迷信4 「傘を決してベッドやテーブルの上に置いてはならない」

こちらは、濡れた傘をどのように扱うか、というマナーにつながるところから発生した迷信ではないでしょうか。
家の中に持ってくると床が濡れるため、滑ったりして危ないという点や、湿ったベッドで寝ることは不快であることなどからきたと思います。

迷信5 「傘を落としたら誰かに拾ってもらわなければならない」

「傘を落としたら誰かに拾ってもらわなければならない(自分の傘を拾い上げる女性は決して夫を見つけられないだろう)」
これは、「落としたナイフやフォークは、自分で拾わず、給仕に拾ってもらう」というフランス料理などのマナーと近いものがあるのでしょうか?ちょっと違うような気もしますが。

日本では、落ちている鏡や櫛を拾ってはいけないという、迷信があります。
鏡と櫛の両方とも神聖なものという意味が元々あるようです。

迷信6 「傘の贈り物は縁起が悪い」

中国では「傘」の発音が「散」と同じサンと言うため、「散らばる」「バラバラになる」「離れ離れになる」「関係が壊れる」を連想させるため贈り物は避けるといわれています。

また同様の由来からお金が無くなる「散財」を想起させることと、普段は家で傘をささないので、屋根が破れて雨漏りしていると思い起こさせるため家庭運が悪い・財産が無くなるといわれています。

迷信7 「水夫は船上で傘を持つことを好まない」

「水夫は船上で傘を持つことを好まない。たまたま傘が黒い場合はなおさらである」
やはり船に乗っているときに嵐ができるだけ来ないことを祈るところからくるのと、黒い色は不吉な色というところ、嵐や暴風雨の雲の色などを連想させるところからきているのではないかと思います。

迷信8 「自分が願うことと全然逆のことを考えると心配事は起こらない」

「自分が願うことと全然逆のことを考えると心配事は起こらない」と信じられていたことから、いまにも降りそうな日に傘を持って出ると、たまたま天気になったとしても、傘のご利益があったことになるとのこと。
またごく初期の傘の骨は必ず8本と決まっていたため、これによって「二本の十字架」double crossが組まれ、素晴らしい幸運のしるしと考えられていたそうです。

まとめ

迷信の定義に害を与えるものとありましたが、傘の迷信については悪いことにつながる迷信と幸運につながる迷信もありました。
傘は使い方によっては危険なところもあるから注意して使うようにというところと、太陽光が強烈なところでは忌むべき悪霊がいるためそれを傘が守っているという考え、の両方が背景にあるのかもしれません。
今の傘は安全性も向上し危険度が低くなりました。
傘を使うときのマナーも向上していけば悪い方の迷信は無くなってくるのかもしれません。
世界には傘以外にもいろいろな迷信がありますので、それぞれの国の人たちと交流する中で傘について情報交換してみたら意外な発見があるのではないでしょうか?

参考文献
はじまりコレクション:著者チャールズ・パナティ
カッセル英語俗信・迷信事典:著者:デービッド・ピカリング
30代なら知っておきたい! 日本人の『生活』と『知恵』 著者: 生活と知恵を守る会
アメリカの迷信さまざま:ジュリー・バチェラー,クローディア・ドリス著 横山一雄訳