傘と文化との関係

傘の美学:浮世絵に描かれた雨と人々の姿

浮世絵と傘

古今東西、傘を持った立ち姿はモデルの定番となっているように思います。
そこには時代や場所を問わず共通する美意識があるからではないでしょうか。
日本の場合で遡ってみると、浮世絵の美人画に傘が沢山描かれ、多くの人の目に触れ、広く浸透していったと予想してみました。

そもそも、浮世絵とは

浮世絵(うきよえ)は、江戸時代に発展した日本の絵画の一ジャンルです。浮世絵の「浮き世」とは「現実」という意味で、主に庶民の日常生活や風景、歌舞伎役者、美人画などを描いたもので、木版画や肉筆画として制作されました。

特徴

木版画: 浮世絵の多くは木版画で、複数の色を使った「錦絵(にしきえ)」が特に有名です。

肉筆画: 紙や絹に直接描かれた一点ものの浮世絵もあります。

傘の書かれた浮世絵は?

傘が描かれている浮世絵は、日本の江戸時代から明治時代にかけて制作された数多くの作品の中に見られます。
浮世絵には、日常生活の一コマを切り取ったものから、物語性のあるものまで、様々な作品があります。その中でも、傘が描かれた作品は、雨の日ならではの情緒や、人々の暮らしを垣間見せてくれる魅力的なものが多くあります。

傘が描かれた浮世絵の魅力

雨の日ならではの情緒
雨に濡れた風景や、傘を差す人々の姿は、静けさや物憂げな雰囲気を醸し出し、観る者の心を惹きつけます。

江戸の生活様式
浮世絵に描かれた傘は、当時の江戸の人々の暮らしや風俗を垣間見せてくれます。

日本の美意識
浮世絵に描かれた傘は、日本の美意識である「侘び寂び」や「余白の美」を表現していると言えるでしょう。

代表的な傘の浮世絵

傘が描かれている有名な浮世絵にはいくつかあります。以下にいくつかの例を紹介します

歌川広重「東海道五拾三次之内 庄野 白雨」

歌川広重は、風景画で有名な浮世絵師であり、彼の代表作「東海道五十三次」シリーズの中には、雨の情景が描かれた作品が多くあります。
特に有名なのが「庄野 白雨」です。この作品では、大雨の中、旅人たちが傘を差しながら道を急いでいる姿が描かれています。
傘が雨の日常を象徴するアイテムとして生き生きと表現されています。

歌川広重「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」

こちらも急な夕立に見舞われた江戸の風景を描いており、隅田川にかかる大はしの上で、夕立に降られ、傘を差して歩く人々の様子が描かれています。江戸の活気あふれる様子が伝わってきます。

これらの作品は、傘を通じて江戸時代の日本の風景や文化を美しく表現しています。

歌川国芳 「隅田川花見」

歌川国芳は、ユーモラスな表現を得意とする浮世絵師です。
江戸時代末期を代表する浮世絵師の一人であり、画想の豊かさ、斬新なデザイン力、奇想天外なアイデア、確実なデッサン力を持ち、浮世絵の枠にとどまらない広範な魅力を持つ作品を多数生み出しました。

歌川国芳「十日の雨」

同時代の歌川国貞や渓斎英泉に比べると歌川国芳の美人画の数は少ないようですが、多彩な歌川国芳は美人画にも傑作を残しています。
当時、団扇として竹の骨に貼って使われた団扇絵は、人気があり、北斎や広重も手がけています。
国芳は、美人画の団扇絵を多く描いており、本図もその中の一点です。夜、急に降ってきた雨にあわてて道を急ぐ姿を躍動的に描いています。

葛飾北斎「柳下傘持美人」

北斎は、ダイナミックな構図と鮮やかな色彩で知られる浮世絵師です。
彼の作品の中には、雨中の風景や、傘を差す女性を描いたものもあります。

喜多川歌麿「婦女人相十品 雨傘の女」

喜多川歌麿は、美人画で知られる浮世絵師であり、彼の作品にも傘がしばしば登場します。
たとえば、「婦女人相十品」シリーズには、女性が優雅に傘をさしている場面が描かれています。
このような作品では、傘が美しさや品格を強調するための小道具として使われています。

東洲斎写楽「役者絵」

東洲斎写楽の浮世絵には、傘を持った役者が描かれることもあります。
写楽は、歌舞伎役者の独特な表情やポーズを描くのに長けていましたが、役者の衣装や小道具としての傘が、劇中の役割やキャラクターを表現する重要な要素となっています。

渓斎英泉(けいさい えいせん)「初夏の雨」

武士の子として江戸で生まれ、菊川英二や英山(えいざん)に師事して浮世絵師となり、江戸後期に活躍しました。
特に江戸文化が成熟した幕末期に活躍した浮世絵師として知られています。
英泉が描いた美人画は、独特の妖艶な魅力を持ち、強い存在感を放っていました。文政(1818-1830)中期頃には美人画の第一人者として認められ、多くの錦絵が出版されています。
最初は英山風の美人画を描いていましたが、やがて切れ長の目や上がった目尻、突き出した下唇といった特徴的な妖艶な美人を描くようになりました。
また、洋風の遠近感や明暗を取り入れ、庶民の日常を温かい視点で描いたことも特徴です。

鈴木春信「雪中相合傘」

江戸時代中期に活躍した浮世絵師です。
細く繊細な表情を持つ美人画で人気を集めました。また、浮世絵といえばよく思い浮かべる、木版画の多色摺りである「錦絵」の誕生に大きく貢献しました。
「雪中相合傘」は、雪の中で一つの傘をさして寄り添いながら歩く若い男女を描いています。
白と黒の衣装の対比が美しく、周囲の雪景色と相まって幻想的な雰囲気を生み出しています。

まとめ

浮世絵の中で傘は、雨や日常生活の一部としてしばしば描かれています。
風景画や美人画、役者絵の中に登場する傘は、その時代の日本の文化や生活を反映しています。
傘が登場する浮世絵を鑑賞することで、当時の人々の生活や自然との関わりを深く理解することができます。

さらに傘は、浮世絵の中で、単なる道具ではなく、様々な意味を持つ重要なモチーフの一つでもあります。
雨の日ならではの情緒や、人々の暮らし、そして日本の美意識を表現する上で、傘は欠かせない存在だったと言えるでしょう。

今度雨が降って傘を使うときがありましたら、浮世絵のように粋な立ち姿を意識してみてはいかがでしょうか。