傘を解析する

世界の色彩感覚 何色の傘をあなたは選ぶ?

皆さんが持っている傘は何色でしょうか?
傘には、基本の定番色から鮮やかな色、柄(がら)の傘などいろいろありますが、いつも似たようなものを選んでしまってはいないでしょうか?
色の感覚は人それぞれ違うように思えますが、国や社会のなかで共通した感覚もあるように思います。
そんな色に関する感覚について取りまとめましたので、傘売り場や町中で見かけることの多いあの色の理由や、新たに傘を買う際の参考にしていただければと思います。

国による「色の違い」

虹は何色?
空に架かる虹、何色に見えますか?絵を描くとき、何色を使って描きますか?
日本では『赤・橙・黄・緑・青・藍・紫』の七色が一般的ではないでしょうか。

この虹の色、世界ではこんな風に見えています。

同じ虹を見ているはずなのに、こんなに見え方に差があるなんて不思議ですよね。
見え方の違いのほか、考え方の違い(色をどこまで分けるか等)も大きく影響しています。

タイでは、曜日ごとに色や仏像、数字などが決まっています。そして、誰もが自分の生まれた曜日(誕生曜日)を知っており、自分の誕生曜日の色をラッキーカラーとして身につけたり、占いに使ったりしています。カレンダーなどの暦が普及していなかったころは、宮廷に仕える女性の服の色で、その日の曜日を確認していたそうです。

同じ色なのにどうして違う?

同じ色を見ていても、国によって見え方や感じ方が違うのはなぜでしょうか。
様々な要因がありますが、その中でも大きな理由が3つあります。

理由1.文化や歴史による違い

色に対する印象は、人々の所属する国や地域の文化、歴史、宗教によって異なります。文化の違いによって、色の表現や認識も変わります。たとえば、太陽を描く場合、日本人は一般的に赤を使いますが、欧米では黄色を使うことが一般的です。
日本には、聖徳太子が作った官位制度「冠位十二階」というものがあります。この制度では、最も高い位の色は紫でした。紫はかつて自然由来の染料が入手困難であったため、高級品の色とされていました。そのため、紫の衣服を身に着けることは権力の象徴とされ、現代でも紫色は「高貴」「尊い」「優雅」といったイメージがあります。
一方、黄色は日本では明るく未来を象徴する色ですが、エジプトでは喪を表す色とされています。歴史や文化によって、色に対するイメージは大きく異なることがあります。
また、宗教も色の印象に影響を与えます。キリスト教では、イエスを裏切ったユダが黄色の印を身につけていたとされています。そのため、キリスト教の文化圏では黄色には「裏切り」「不誠実」といったイメージが存在することがあります。
以上のように、色に対する印象は人々の文化や宗教によって異なります。これらの要素を考慮しながら、色を表現する際には相手の文化や宗教に敏感になることが重要です。

理由2. 太陽の光による違い

色の見え方は、太陽の光の波長によって影響を受けます。赤道に近づくと赤みが強調され、赤道から離れると青みが強調される傾向があります。そのため、国や地域によって自然界の色合いが異なることがあります。
また、晴れた日と曇りの日では同じ景色でも見え方が変わります。日照時間の長さも、色の見え方に影響を与える要素です。
このように、国や地域の環境条件や気候によって色の見え方が変わるため、それがそのまま色の好みにもつながっています。たとえば、日本でも北海道と沖縄では建物やお土産、服などの色に違いがあります。世界的にも、南国では鮮やかな暖色が好まれる傾向があり、北欧などでは寒色系が好まれる傾向が見られます。
つまり、環境や文化によっても色の好みは異なるのです。これを考慮して、色を選ぶときは自分の環境や感性に合った色を選ぶことが大切です。

理由3. 目の色による違い

確かに、人種によって目の色が異なることがあります。目の色にはメラニン色素の量が関係しており、黒茶色のメラニン色素が多いアジア人よりも、メラニン色素が少なく青い目の色を持つ白人の方が紫外線の感じ方や色彩感覚において2倍ほど眩しさを感じると言われています。メラニン色素は紫外線から肌や目を守る役割を果たしているため、その量の違いが感じ方に影響を与えるのです。
このような理由から、国や地域によって照明の明るさやサングラスの使用頻度に違いがあるのも納得です。目の色や感じ方の違いは、色の感じ方や色の好みにも影響を与える可能性があります。
しかし、人の感性や個人の好みは単純に目の色だけによって決まるわけではありません。文化や環境、個人の経験なども大きな要素となります。それぞれの個人の感性や好みに合わせて、色を選ぶことが重要です。

そもそも色が与える印象とは?

私たちは無意識のうちに、さまざまな色に触れることで自律神経に刺激を与えています。
自律神経は、活動時に働く「交感神経」と休息時に働く「副交感神経」の2つがあり、これらのバランスが体の調整に関与しています。
自律神経の働きが乱れると、体調にも影響を及ぼすことがあります。そのため、日常的に目にするものの色を変えることで、心身の健康を改善することもできるかもしれません。以下では、各色が自律神経に与える影響について紹介します。

暖色

赤、黄色、オレンジなどの暖色系は、交感神経を刺激すると言われています。
交感神経は、体の活動時に活発に働き、血圧、脈拍、呼吸数を上昇させる効果があります。 また、暖色系の空間は、時間の経過が速く感じられる効果もあります。
そのため、回転率の高い飲食店などで頻繁に使用されています。

寒色

青、紫、水色などの寒色系の色は、副交感神経を刺激すると言われています。
副交感神経は、体をリラックスさせているときに活発に働き、交感神経とは逆に生理機能を鎮静化させる効果があります。 また、寒色は、「後退色」として知られており、対象物を同じ距離から見ても遠くに感じさせる効果があります。
そのため、部屋の壁紙などに寒色を使用すると、部屋全体が広く感じられる効果があります。

色に対するイメージ

赤は情熱の色、ピンクは女性的な色、青は静的な色…みんなそう感じている?
実は特定の色に対するイメージも、世界でずいぶん差があります。

各国がもつ色の印象

ここまで、色が神経や脳に与える影響を中心にみてきましたが、色はさまざまなシンボルとして使われることでも固有のイメージをもつようになりました。おなじ文化圏では同様のイメージをもつことが多くありますが、異なる国や文化では、おなじ色でも異なるイメージをもつ場合もあります。
こういった事情から、デザインを行う際は、ターゲットの国や文化も考慮する必要があります。おなじ色でも、もつイメージが異なればデザインに対する印象も変わるからです。ここでは、色におけるイメージの違いをご紹介します。

赤色は、多くの国で「情熱」「活発」「生命」「積極的」といった意欲的なイメージや「攻撃的」「怒り」といった激情を表すイメージがあります。暖色の中でも特に代表的な色であり、交感神経を刺激して活動的な気持ちを高める効果があります。中国では国旗の色でもあり、祝いの際にも使用されることが一般的です。また、厄除けの色としても知られ、幸運をもたらす色として特に愛されています。
日本のデザインでは、しばしば「女性は赤」「男性は青」といった色分けが行われますが、海外では「Women」「Men」といった文字表示やアイコンによる区分が一般的であり、同じ色が使われることが多いです。
また、近代以降は、ソ連をはじめとする東側諸国が赤をシンボルカラーとして多用したことから、「革命」「共産主義」などのイメージも広まりました。

欧米:愛、情熱、血気、興奮、革命
西洋:愛、エネルギー、行動、興奮、危険、情熱、停止、クリスマス、バレンタインデー
東洋:新婦によって着られるもの、幸福、繁栄
中国:幸福、吉祥、楽しみ、熱烈、発展、成功、順調、成就、祝賀、召集
インド:純粋、官能、スピリチュアル
オーストラリア先住民:大地、地球
ケルト民族:死、来世
ヘブライ人:犠牲、罪
日本:情熱・炎・生命力・興奮・勝利
南アフリカ:喪

青色は、「誠実」「信頼」「平和」「安全」「知的」といったポジティブなイメージが強く関連付けられています。寒色の代表的な色であり、「清涼」「冷静」「清潔」「爽やか」とも感じられます。ただし、一方で「孤独」「憂鬱」「悲しさ」「寂しさ」「冷たさ」といったネガティブなイメージも存在し、静かで落ち着いた印象を与える色とも言えます。
興味深いことに、青色は食欲を減退させる効果があり、多くの国では食品に青色があまり使用されない傾向があります。
また、欧米では出版物の検閲が青色で行われていたことから、「わいせつ」というイメージも持たれています。成人向けの映画を「blue film」と呼び、猥談を「blue jokes」と表現するのも、この由来によるとされています。

欧米:希望、忠実、優秀、憂鬱、わいせつ、陰気
西洋:信頼、安全、説得力、孤独

緑色は草木の色であり、「自然」「新鮮」「若さ」だけでなく、「平和」「癒やし」「協調」「安心」といった穏やかなイメージも持ちます。初々しい印象や未熟さも表現されることがあります。
しかし、西洋では「毒」と関連付けられることもあります。肉食文化の西洋では、腐った肉が緑色に変色することから、「緑色は毒」というイメージが生まれました。また、死後に現れる死斑が緑色だったことや、毒物や劇物が青緑色であったことも影響しています。映画やゲームでは、ゾンビや怪物の血液が緑色で表現されることがあり、不気味さや死のイメージを与えます。また、シェイクスピアの作品に登場する一節で緑色が嫉妬を表現するために使われ、それが定着し「怪物」「嫉妬」といったイメージも生まれました。
さらに、イスラム圏では「国の繁栄」「神聖」などの意味合いがあります。イスラム教の始祖であるムハンマドが緑色のターバンを身に着けていたことが由来とされ、多くのイスラム国家の国旗にも緑色が用いられています。

欧米:活気、歓喜、若い、未熟、嫉妬、毒、怪物、不気味
西洋:若さ、肥沃、新しい生命、不貞、春、誕生、移動、お金、聖パトリックデー、クリスマス
イスラム:国の繁栄、神聖、真理
中国:「緑の帽子」は妻を寝取られた男性、厄除け、不貞
インド:イスラム
アイルランド:国の象徴、宗教(カトリック)
日本:生命
東洋:永遠、家族、健康、繁栄、平和

白色は一般的に「純粋」「潔白」「神聖」といった清らかなイメージがありますが、中国やインドなどでは「葬式」「不吉」「死」といったネガティブなイメージも持たれることがあります。中国の京劇では、登場人物の性格を顔の隈取りで表現しており、白い隈取りの人物は悪役を象徴します。そのため、中国では白は悪い印象と関連づけられています。同様に、日本の歌舞伎でも青の隈取りが悪役を表す役割を果たしています。
また、西洋では白が「降参」「敗北」といった「負け」のイメージと結びつくこともあります。これは戦争において降伏する際に白い旗を掲げることが国際的に定められているためです。
白は一般的に「純粋」「無垢」「清潔」「神聖」といったポジティブなイメージが広まっていますが、海外では病気や死体、幽霊といった不吉なイメージを連想させる国も多く存在します(日本でも幽霊の着物や経帷子は白色です)。

欧米:純潔、潔白、真実、降参
西洋:純粋、エレガンス、平和、清潔
中国:高潔、純潔、明亮、清潔、高貴、公明、陰湿、極悪、葬式、不吉、死
ベトナム・ヒンドゥー:葬式、不吉、死

「強さ、自信、洗練、高級感」といったイメージの他に「恐怖、威圧、孤立」といった拒絶のイメージも強い黒。
欧米でも「高級」なイメージと共に「死、不吉、失望」といったマイナスイメージを持っています。古代中国では黒が重用されていたため、「正直、勇敢」といったイメージが強かったのですが、現代の中国では悪いイメージが大半を占めています。

欧米:高価 優雅 高貴、死、不吉、陰険、悲哀、失望、不名誉
中国:負、暗黒社会、違法、闇
中東:転生、哀悼
アフリカ:年齢、成熟性、男性的

ピンク

「優しさ、可愛らしさ、か弱さ、柔らかさ」など女性的なイメージが強いピンク。他にも「幸福、若さ、わがまま」などがあります。また、色っぽさや卑猥な印象もありますが、ピンクがそういった意味で受けとられるのは日本だけのようです。
欧米では、ピンクは赤ちゃんの肌の色とされ、若さや健康、新鮮さを表します。

欧米:健康、活力、極致、同性

黄色は一般的に「向上心」「好奇心」といった意欲を表現し、「希望」「豊かさ」といった幸福感をもたらす色とされています。また、「軽快」「賑やか」「カジュアル」といったアクティブなイメージもあります。黄色はポジティブなイメージが強いですが、同時に警告色としても使用されることもあります。
欧米や西洋では「卑劣」「臆病者」といった意味合いも黄色に関連づけられることがあります。さらに、アメリカではタクシーやスクールバスのカラーリングに黄色が使われています。そのため、「交通機関」「輸送」といったイメージも強く結びついています。
一方、中国では黄色はもともと高貴な色とされていましたが、アメリカから入ってきた出版物の影響で「いかがわしい」といったイメージに変わってしまったとされています。

欧米:裏切り、卑劣、臆病
西洋:幸福、陽気、前向き、暖かみ、喜び、希望、注意、臆病、運、臆病者、弱さ、タクシー
中国:いかがわしい、滋養、忠誠
エジプト:幸福、幸運、喪
インド:商人
日本:勇気
東洋:悪に対する試練、死者のための色、犠牲、帝国

オレンジ

「家庭的、明るい、親しみ、健康的、元気、活発」など、温かさを感じるオレンジ。「幼稚、安っぽい」といったイメージもあります。
西洋では実りの秋、収穫のイメージ。 ヒンドゥーではオレンジは神聖とされていて、火を象徴しているそうです。

西洋:収穫、温もり、知名度
東洋:愛、幸福、謙虚、健康
ヒンドゥー:縁起が良い、神聖

「気品、厳粛、崇高」といった高貴なイメージと「神秘的、霊的、宇宙、精神、孤独、不吉、死」といったスピリチャルなイメージを併せ持つ紫。
紫は世界中で権力や宗教的地位の象徴として捉えられています。昔、紫の染料は貴重なものだったため、位の高い人物しか身につけることができなかったというのが背景にあるそうです。

西洋:高貴、豪華、帝王、仰々しい、俗悪、葬式
ブラジル、タイ:哀悼

色に関する調査

日本人が好きな色と嫌いな色

色の嗜好の統計データを扱う「色カラー」が、ネット上で日本人の色の好き嫌いについてアンケートをとり、約8万件のデータを集めました。
https://iro-color.com/questionnaire/result/color-likes.html
その結果、日本人が「最も好き」と回答した色は以下の通りです。
1位「青」 2位「桃」 3位「赤」

その一方で「最も嫌い」と答えた色は以下の通りとなりました。
1位「桃」 2位「紫」 3位「金色」

国・地域別に見た好きな色

「YouGov」が行った、世界4大陸・10か国に住む人々に対して「最も好きな色は?」という調査を実施しました。
https://docs.cdn.yougov.com/iftwmz6zvn/International-Favourite-Colour-Website.pdf
その結果、調査を行った10か国すべてにおいて「青色が最も好き」という結果でした。
2位には多くの国で「赤」が選ばれており、「緑」・「紫」についても比較的上位にきていることがわかると思います。日本で2位であった「桃」は、いくつかの国では中間あたりの順位に入っていますが、多くの国においては上位にランクインする色ではないようです。

また、日本の色彩学の第一人者であり武蔵野美術大学造形学部教授でもある千々岩秀彰氏が報告した「色と心理」において「世界各国で好まれている色の一覧」があります。
https://www.kajima.co.jp/news/digest/feb_2001/tokushu/toku01.htm
調査方法が異なるため、いくつかの国において上記の調査とは異なる結果が出ていますが、やはり「青」が突出して好まれており、「赤・緑」などが後に続くというのは共通しています。

また、興味深いのは、オランダやフィンランド・ドイツ・フランスといったヨーロッパ諸国において「橙」が非常に人気であることです。西洋では「橙」は収穫や実りと関連していると言われており「橙」を選ぶ人が多くいたのでしょう。また、ラオスやインド・バングラディッシュといったアジアの国々において「白」が人気であることも興味深いデータとして読み取れます。

千々岩秀彰氏は、このように国や地域によって好む色は様々だと述べたうえで、トータルにみると国や地域による明らかな色の好みは結論付けられないと締めくくっています。

世界で人気の「デジタル画像の色」

世界の国々や地域で、好きな色が異なることがわかりました。それらの色を効果的に利用することで、顧客によりよい印象を与えることができるでしょう。しかし、世界中で愛される色が「青」だからといって、単純に傘の色を青色ベースに組み立てればよいのか、といえばそうではありません。

世界最大規模の画像プラットフォーム「Shutterstock」の調査「2019Discover the World’s Most Popular Colors」によると、ダウンロードするデジタル画像の色に関し、国ごとの大きな特徴があるというのです。現代はWebを見る時間は非常に長くなっているため、これらの色を効果的に利用することで、実物である傘にも効果があるかもしれません。
https://www.shutterstock.com/blog/2019-color-trends

まとめ

色に対する世界の国や地域における感じ方の違いについて見てきました。
歴史や地域性を原因とする要素から見える傾向とWeb上から見える傾向は必ずしも同じということはないですが、国や地域ごとの傾向を見つけだしてその地域の人たちに喜ばれる傘を販売してくれるといいですね。