傘を取り巻く環境

失くしたくない! 傘を失くしてしまう理由 記憶と注意の関連性:傘を失くさないためには記憶と注意をどのように活用すべきか?

 

傘を失くしてしまった経験は誰にでも一度はあるのではないでしょうか。
私は何度も経験しているので、失くしたことが無いという人に対しては尊敬します。
大切な傘であればあるほど、失くしてしまった時のショックは大きいものです。そのショックの大きさから、失くしてもショックの少ない安物のビニール傘を使うという本末転倒な行動をしてしまう方もいるそうです。

どうしたら傘を失くさないか、この答えが見つかれば巷にあふれる数多くの傘不幸を無くすことができるはずです。そこで記憶をつかさどる脳のしくみの面から傘を失くさない方法を探ってみました。

1.そもそも忘れるとは?記憶の仕組み

脳が情報を記憶する仕組みは、私たちの目や耳などの感覚器からの情報が脳の感覚領域で処理されます。それから、大脳の中心にある海馬に集められます。海馬では、記憶が整理されて一定の期間保存されます。
このプロセスで、私たちの脳の神経細胞同士がつながっているシナプスの伝達効率が上がります。
つまり、シナプスの接合部が強化されることで、記憶が保持されます。この仕組みを「シナプス可塑性(かそせい)」と呼んでいます。

記憶が強くなるためには、その情報を強く感じたり、何度も繰り返し経験することが重要です。
例えば、傘を忘れないようにするためには、何度も繰り返し思い出したり、意識的に覚えようとすることが効果的です。そうすることで、“傘を忘れない”という情報がしっかりと頭に残るようになります。
要するに、私たちは何かを覚えるときには、それに関連する情報に積極的に触れることや繰り返し経験することが大切です。そうすることで、私たちの脳はより強固な記憶を形成することができようになります。

2-1 記憶の分類

記憶は、短期記憶と長期記憶に分けられます。短期記憶は比較的短い時間(最大で10〜15秒程度)しか持続せず、その後忘れられてしまいます。一方、長期記憶は長い期間まで残ることがあります。
長期記憶には、言葉や図形で表現できる陳述記憶(宣言的記憶)と言葉では表現しにくい非陳述記憶(非宣言的記憶)の2つの主要なタイプがあります。
非陳述記憶は無意識の働きに関連し、身体で覚えるような手続き記憶やプライミング記憶、古典的条件づけなどが含まれます。
「傘を忘れない」ということは、身体で無意識に覚えるようなものではなく、言葉や文章で表現できる陳述記憶に分類されます。

2-2 出来事記憶と意味記憶とは

陳述記憶は、言葉や絵などで表現できる記憶のことです。それが出来事記憶と意味記憶に分かれます。
出来事記憶は人生での出来事やエピソードのことを指します。一方、意味記憶は学んだことや知識のことを指します。
記憶は、無意識に行う手続き記憶から出来事記憶まで、いくつかの階層に分かれていて、それは進化的な発達や年齢的な成長にも関係しています。
「傘を忘れない」ということは、将来の行動を覚えるという意味で「意味記憶」に当てはまります。

3.記憶の3プロセス

記憶のプロセスは3つあります。
① 記憶すること(コード化、エンコード) 経験したことを記憶に取り込むこと。外部の情報を自分の中の記憶に変換します。
② 記憶を保持すること(貯蔵、ストレージ) 記憶されたことが保たれること。
③ 記憶を思い出すこと(検索、レトリーバル) 保持されていた記憶が外に現れること。

思い出す方法には「再生」、「再認」、「再構成」があります。
「再生」は以前の経験を言葉や絵で再現することです。「再認」は「昔経験したこと」として認識できること。「再構成」は以前の経験を要素を組み合わせて再現すること。
「傘を忘れない」ためには、これらの記憶の3つのプロセスがしっかり行われる必要があります。

4.記憶と夢の関係は?

夢と記憶の関係について言えば、夢は私たちの日中に起きた出来事の記憶を整理する役割があります。
レム睡眠中には、脳の海馬が一日の記憶を整理し、保存すべき情報と消去すべき情報に分類します。
その結果、私たちは夢を見ることになります。ノンレム睡眠中も夢を見ることはありますが、その内容は記憶に残りにくいです。ノンレム睡眠中の夢は、レム睡眠中の夢が行う記憶整理のお手伝いをしていると言われています。

睡眠不足の時は、ノンレム睡眠を優先するためレム睡眠の時間が減ってしまいます。
そのため、長期記憶を作るためには、まずしっかりとノンレム睡眠を取ることが大切です。つまり、しっかりと記憶を定着させるためには、良質な睡眠時間を確保することが必要となります。
そこから、「傘を忘れないようにするためには、睡眠不足は避けるべき大敵」と言えます。

5.人はなぜ忘れるのか

人が忘れる理由はいくつかあります。記憶を思い出すとき、脳内の回路に電気信号が流れて記憶が呼び起こされます。しかし、思い出せない場合、その理由は電気信号が弱いからです。
忘れてしまうことは、脳の記憶容量を効果的に活用するために備わっている仕組みです。実際、脳の記憶容量は約10テラバイトあります。
また、加齢による物忘れもあります。これは、効率的な神経細胞とシナプスの組み合わせが減少するためです。ただし、アメリカの研究では、脳に電気を流すことで記憶を強化することができるという結果も出ています。
もしかしたら将来的には、傘を忘れないようにするために、脳に電気を流す方法が開発されるかもしれません。
つまり、忘れることは自然な現象であり、脳が効率的に情報を処理するための仕組みの一部です。

6.忘れることの調査 エビングハウスの忘却曲線

以下は、エビングハウスの研究に基づくグラフで、私たちが何かを学んだ後、そのままにしておくとどれだけ急速に忘れてしまうかを示しています。エビングハウスは、記憶について最初に研究を行った人であり、その研究は1885年に行われました。
エビングハウスは、脳の働きを理解するために自分自身を実験材料として使用しました。彼は意味のない文字列(音節)を覚える期間を調べ、時間の経過とともに記憶の割合がどのように低下するかという一貫したパターンを発見しました。学習直後は100%覚えていても、最初の数日で急速に低下し、学習後30日程度で安定します。
一般的に、記憶の保持量は学習直後の約20分で半分近くまで急速に減少することがわかっています。
傘を忘れないようにするためには、20分以内に忘れないようにするための何らかの対策を取る必要があります。私たちはこれを「20分の壁」と呼ぶことができます。

7.記憶しやすい方法とは?

人が記憶しやすく思い出しやすい方法はいくつかあります。以下に具体的な方法を説明します。
① 興味を持つこと: 興味を持つ対象について学ぶと、記憶しやすくなります。関連する情報を結び付けたり、語呂合わせを使ったり、意味を持たせることで覚えやすくなります。特に数字や記号の場合は、その意味を理解して記号以上のものとして扱うと良いです。

② 情緒的な出来事: 感情が強い出来事や楽しかったこと、悲しかったこと、不愉快な記憶は忘れにくい傾向があります。特に怖い状況では、脳の偏桃体が刺激され、その瞬間の記憶が強化されます。ストレスホルモンの分泌によって記憶が固定化されることもあります。例えば、傘を忘れて怒られたことで怖い記憶があると、傘を忘れにくくなるかもしれません。

③ 好意的な関連付け: 記憶内容が好意的であると、覚えやすくなります。また、学習時の文脈や手がかりと思い出すときの類似性があると、思い出しやすくなります。例えば、傘をお店に置いて、帰るときにまだ雨が降っている状況では、その文脈から傘を思い出しやすくなります。自分自身に関連付けたり、特定の感情と関連付けることも効果的です。

④ 繰り返し学習と休憩: 内容を何度も繰り返し学習すると、記憶の保持が良くなります。また、学習と休憩を交互に行うと、記憶の保持に効果的です。リハーサル効果と初頭効果が関係しています。また、体を動かすことや書くことも記憶を補完する効果があります。例えば、傘を忘れないようにするために、お店を出る前に指差し確認をしたり、メモを取ったりすることが役立ちます

8.実際に傘を失くしてしまう原因として考えられるもの

人間の脳は、日常的なルーティンタスク(習慣的な行動)を処理するために、自動的に「省エネモード」に切り替えることがあります。つまり、慣れ親しんだ場所や状況では、脳はその情報を簡略化し、短時間で処理するようになるのです。そのため、傘を使う場面では、傘を置く場所や、置き忘れないようにするための行動を、あまり意識せずに行ってしまうことがあります。
さらに、ストレスや疲労、気分の落ち込みなどがある場合、脳の処理能力が低下し、物事をうまく処理できなくなることがあります。そのため、ストレスや疲労が原因で、傘を置き忘れることがあるかもしれません。
また、傘を置き忘れる理由としては、注意散漫によるものもあります。例えば、スマートフォンや会話など、他のことに気を取られていると、傘を置き忘れる可能性が高まります。
このように、傘を置き忘れる理由は、脳の処理能力や気分、注意散漫など、さまざまな要因が絡み合っていることが考えられます。具体的には以下の表のようなことが挙げられます。

傘を置き忘れる理由
原因理由
雨が降っていなかったから雨が降っていれば傘を使ったので忘れることはない
傘が邪魔だからついどこかに置いてしまい、それが忘れる原因となる
傘立てに置いてしまったから常に持っていれば忘れないが、手から離れたことで忘れてしまう
心身のコンディションの問題疲れていると集中力が散漫になり、傘への注意を無くす。飲酒の席も同様に集中が途切れやすい。
環境の問題手元に置いておくことができず、自分で管理しなければならない環境
安物だから傘を大事に持って帰るという意識が薄い
何処でも安く買える傘を失くしても困らない
他のことに夢中になっている傘の存在を忘れてしまう
  • 傘忘れ防止術
防止術理由
いい傘を買う気に入った傘として、意識付けが高まる
置き場所を工夫する傘を離れたところに置かない、自分のすぐそばに置く
電車内では腕、カバンの肩掛けベルトや持ち手、腰のベルトなどにかける、常に手に持っておく手放さなければ忘れないため、もしくは後ほど必ず傘に触れるため
折りたたみ傘にする使わないときはしまうと置き忘れる事は無くなる
目立つようにデコる興味・関心が強くなり意識付けが高まる
忘れ物チェックの習慣をつける指差し確認やチェック表を使用することで記憶が強化される
余裕を持つ傘への注意が継続する
スマホ アプリでリマインダー機能を使う忘れていても知らせてくれる
傘ケースで持ち歩く目立つ、意識付けが高まる
傘忘れ防止グッズを使う傘忘れ防止グッズの機能を活用する
メモ用紙に傘のことを書く記憶を強化、定着させる
口頭で傘を置いたことを確認する記憶を強化、定着させる
周囲の人に傘を忘れたら声を掛けてもらうよう依頼する自分だけでなく周りの人の力を借りる

9.まとめ

脳における記憶の仕組みなど脳科学や認知心理学の面から傘を忘れないための方法を検討しました。
強く記憶するためのコツや忘れないための方法については、勉強や仕事にも活用できるかもしれません。
脳科学は現在非常に速いスピードで研究が進んでいる分野です。近いうちに傘を忘れない画期的な方法が見つかるかもしれません。その時までは、ここに挙げたような地道な方法で傘を忘れないように気をつけましょう。
また、脳はエネルギーをたくさん使うといわれていて、体重比2%の脳が18%のエネルギーを消化します。人間の主なエネルギーはグルコースと脂肪酸です。しかし脳にはグルコースしか届かないため、グルコースであるいわゆるブドウ糖を傘を忘れそうな時にはしっかり摂るといいですね。

参考図書
脳科学のはなし 科学の眼で見る日常の疑問 稲場英明著 技法堂出版
「人間とは何か」はすべて脳が教えてくれる 思考、記憶、知能、パーソナリティーの謎に迫る最新の脳科学 カーヤ・ノーデンゲン著 誠文堂新光社
カラー図解 脳の教科書 はじめての「脳科学」入門 三上章允著 講談社