傘と文化との関係

雨音と傘:自然と人間の共鳴

傘と雨は切っても切れない関係になります。晴れた日に日傘は使わない方でも雨の日に雨傘を使う人はたくさんいます。雨が降れば傘を差し、雨が上がれば傘を閉じる、というように傘にとっては雨を中心に世界は回っているといえます。
そんな傘からしたら世界の中心となる雨について、傘に関連することを中心にいろいろと調べてみました。

1.雨が奏でる「太鼓傘」

雨が傘に当たった時に発生する独特の音に着目し、その音が太鼓の音に似ているところから太鼓傘と呼ばれる傘があります。この表現は、雨音と音楽、自然と文化の美しい融合を示唆しています。昔の傘のほうが生地に張りがあっていい音がするとの話もあります。
まず太鼓傘は、雨粒が傘の表面に当たる瞬間の音を指しています。この音は、水滴が弾むように傘に当たることから、ポンポンと明るくリズミカルで心地よい音が特徴です。この音は、様々な音楽楽器や音の中で、太鼓の音に似ていると感じられます。
また太鼓傘の音は、美的な要素があり、多くの人々にとって心地よいと感じられます。雨音の中のリズムや和音は、人々に穏やかさや安心感をもたらすことがあります。

2.雨音のリラックス効果

前述した雨がもたらすリラックス効果の理由には、以下の4つがあげられます。

1/fゆらぎ

1/fゆらぎとは、自然音の中に含まれる、規則性はないけれども特定のリズムを持つ音を指します。雨の音にも1/fゆらぎが存在します。この音は心臓の鼓動など生体リズムと調和し、私たちにとって心地よく感じられます。川のせせらぎ、心臓の音、ろうそくの炎の揺れなど、自然界はさまざまな「ゆらぎ」で満ちています。人や他の生き物は、これらの音を日常生活で自然に耳にすることから、心が落ち着き、心地よさを感じるようになると言われています。

高周波で脳からα波を出す

雨の音や自然音には、人の耳には聞こえない高周波である「ハイパーソニックサウンド」が含まれています。これが耳で聴く音と組み合わさることで、脳が活性化することが知られています。ハイパーソニックサウンドに触れると脳がα波を発生させ、リラックス状態に導かれます。静かな雨音の中には、人の耳に届かない高周波が含まれているため、α波が活性化している脳は、リラックスしており、脳の活動が促進されています。
雨の音は、水滴が次々に落ちて流れる音であり、これはテレビや空気清浄機のような「ザー」というホワイトノイズに似ています。この雨音には心地よいリズムがあり、これが自然に心を落ち着かせ、脳の集中力を高め、ストレスの軽減やリラックス効果が期待されます。雨の音は約40デシベルであり、自然の中で最も静かな音は雪が降る音で約20デシベルです。

水で洗い流されるイメージ

これまでは科学的な側面について説明しましたが、次に雨の音がもたらすイメージによる効果について述べます。雨の音は、水滴が次々に落ちて流れる音です。このため、雨の音によって水で洗い流されるイメージを抱くことができます。これにより、心の鬱屈感や疲れなどが洗い流され、すっきりした気分になれるので、雨の音はリラックスに適していると言えるでしょう。

雨の雫からなる『視覚効果』

雨の効果は音だけに限らず、視覚にも訴える要素があります。雨滴が落ちる様子や波紋が広がる様子など、目で感じる視覚効果も、集中力を高める上で非常に効果的とされています。
水は本来持つ清らかなイメージに加えて、ゆらゆらと波立つ様子は、自然と人々の心を落ち着かせ、和ませてくれるのです。この効果は水だけでなく、焚火や風に揺れる木々の様子でも同じ様に得られます。

3.雨の音とは?

雨は、科学的な表現とすると、空から水滴が落下してくる気象現象です。実際、水滴自体が落下する間は、音を発していません。私たちが「雨の音」と感じるのは、これらの水滴が地上の何らかの物体と衝突したときの音です。
たとえば、コンクリートに当たる音、芝生に当たる音、土の上に落下する音、瓦屋根にぶつかった音、傘に当たった音、水溜まりに落ちた音など、さまざまな場所や物体、環境によって異なる音が鳴ります。それぞれの場所や物体、環境によって音の鳴り方が異なるため、これらのたくさんの音を総称して「雨の音」と呼んでいるのではないでしょうか。まさに、ピッチ、ピッチ、チャップ、チャップ、の音ですね。

4.雨音を作る(再現する?)

レインスティックを使うと

みなさんはレインスティックという楽器を知っていますか?
レインスティックは、アフリカが発祥とされる伝統的な民族楽器で、その楽器の特徴から雨の音に例えられています。アフリカで起源を持ち、後に世界中に広がり、特に中南米では雨乞いの儀式で用いられるようになりました。
この楽器は、一見すると長い木の棒のようで伝統工芸品のようにも見えますが、上下に振ったり、ひっくり返すとシャラシャラと美しい音が鳴ります。この音が雨の降っている音に似ていることから「レインスティック」と呼ばれるようになりました。
製作方法は、乾燥した筒状のサボテンの内部に、サボテンのとげや針をらせん状に差し込み、小さな小石や豆、種を入れて作ります。この筒を傾けたり、ひっくり返すと、トゲや針に小石たちが引っかかりながら落下していくことで、雨が降っているかのような優しい音がします。昔、原住民の人が乾燥したサボテンを拾ったところ、この美しい音が鳴り響き感動して作られたとも言われています。

雨うちわを使うと

効果音を作り出すことによって、歌舞伎の舞台により臨場感を与える役割を担う鳴物です。
雨の音を演出するために用いられ、渋団扇(しぶうちわ)の片面にビーズが付けられていますが、元来は小豆や小石などを使用していたのだそうです。うちわを左右に傾けるようにして振ると、昔の板屋根や番傘に雨粒が打ち付けられるような、パラパラという雨音をリアルに再現できます。

雨音を物理モデルによって再生する研究論文です。

「形状変化を想定した物体の発音モデルに関する一検討」

5.視覚障害者と雨音

ここまでは雨音と傘の良い面について紹介しましたが、雨音が必ずしもいい面ばかりではないことも知っていただきたいと思います。視覚障害者にとって雨が降っているときに雨音がして必要な音を聞き取りにくくなることに関連する研究や記事を紹介します。

視覚障害者のための傘の降雨騒音低減に関する基礎的検討 : 傘の雨滴衝撃音の音響特性について

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/66/6/66_KJ00006395738/_article/-char/ja/
雨天時に発生する傘の雨滴衝撃音は,視覚障害者が歩行時に手かがりにしている音の聴取妨害になり交通事故等の原因となっていることから,視覚障害者の雨天時の歩行の安全を確保するために,傘の雨滴衝撃音を低減させることは重要である。本研究は,傘の雨滴衝撃音低減のための基礎的検討として,自作した人工降雨装置による試験方法の有効性とそれを用いて測定した傘の雨滴衝撃音の音響特性について検討した。その結果,点滴針を用いて製作した装置によって自然降雨の雨滴に近い周波数特性を有する衝撃音を発生させることができた。更にその装置を用いて10種類の傘の布の雨滴衝撃音を測定したところ,傘の素材や厚さ,傘の面や水滴の大きさ,張力の違いによる雨滴衝撃音のレベル差が確認でき,傘の雨滴衝撃音を低減させるためには,傘の面を大きくし,雨滴を拡散させて小さくする,布の張力をある程度弱くすることによって雨滴衝撃音を小さくすることができることを示した。

雨音が視覚障害者の歩行に及ぼす影響

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/66/7/66_KJ00006440787/_article/-char/ja/
雨天時は,降雨による環境悪化によって視覚障害者が屋外歩行時に危険に晒されているという意見が聞かれる。視覚障害者も雨天時に屋外を歩行する機会が少なくないことから,雨天時の視覚障害者の歩行の安全確保は重要な課題であり,その解決は急務である。本研究は,視覚障害者の雨天時の歩行環境整備の第一歩として,視覚障害者のための雨天時の歩行環境の問題点を明らかにするために,視覚障害者と歩行訓練士を対象に三つのアンケート調査を実施した。その結果,雨天時は,"傘にあたる雨音"等の降雨騒音によって,視覚障害者が歩行時に利用している聴覚情報の聴取が妨害されていることが分かった。そこで,雨天時の環境騒音レベルを測定してみたところ,降雨量がやや強い雨の状態で晴天時に比べ15dB以上高かった。このことから,視覚障害者の雨天時の歩行環境整備として,聴取妨害となる降雨騒音の低減が必要であると結論した。

視覚障害者にとって不都合な雨音を低減させる傘もいくつか製造されています。このような傘の存在が多くの人に知ってもらえるといいですね。

6.雨粒の大きさと形について

雨粒は通常、直径2~4ミリであり、大きなもので5ミリ程度です。この大きさを超えると、空気の抵抗の影響で雨粒が割れてしまいます。霧雨は直径0.5ミリ以下の小さな粒でできています。雨粒の落下速度は、直径1ミリの雨粒で1秒間に約4m、2ミリの雨粒で約6m、3ミリの雨粒で約7.5mとなります。直径0.2ミリ程度の霧雨は1秒間に約80cm落下します。

雨粒の大きさや形は、雲の高さや厚みと関連しています。一般的に、低い雲から降る雨は小さな粒であり、高い雲から降る雨は大きな粒となります。その理由は、落ちてくる距離が長くなるほど、雨粒同士がくっつく機会が多くなるためです。

雨粒は空気の抵抗を受けながら落ちてきますが、雨粒同士がくっつくことでより強固な雨粒になろうとします。このとき、表面張力が働いているため、雨粒は球状に近い形を取ります。雨粒が大きくなると、速度が速くなり、底が平らになってまんじゅう型になります。
雨粒の大きさが0.02mmの極めて小さな雨つぶの場合、1秒間に1~2cmしか落ちてきません。一方、直径が0.5mm以上の雨つぶは、一般的に雨(霧雨を含む)と呼ばれ、その速度は秒速2.2mから秒速7~8m(時速25~30㎞)に達します。雨粒が大きくなるほど、速く地上に落ちてくるのです。

まとめ

傘とは切っても切れない関係にある雨についていろいろな角度から紹介しました。
傘をさしていると雨が当たる音が聞こえますが、その音について、1.より良い音を楽しむための太鼓傘、2.雨音が持っているリラックス効果の理由、3.雨音とは実際何の音なのか、4.雨音を再現する、5.視覚障害者にとっての雨音とは、6.雨音の強弱に関係する雨粒の大きさと速さ、を紹介しましたがこの中で興味深いものはありましたか?
日本では年間降水日数が80日くらいある地方もありますので、雨はとても身近なものといえます。
今度雨が降ってきたときは、雨に関係する音楽をかけて、雨に思いを巡らせてはいかがでしょうか。