傘と文化との関係

【傘と芸術】 雨を魅力的なキャンバスに変える創造性

大昔から人間は洞窟に絵を描いたように、芸術は人間の創造力と表現の手段として長く親しまれてきました。
古今東西さまざまな形態の芸術が存在し、それぞれが独自の美と感動を提供してくれます。
傘という身近な道具も、芸術において魅力的な要素となることがあります。
今回は傘がテーマとなっている芸術作品をいくつか紹介したいと思います。

「散歩・日傘をさす女」 クロード・モネ(フランス)


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(全体)

フランスの画家クロード・モネが1875年に描いた絵画です。
印象画で有名なモネですが、この絵のモデルは奥さんと息子です。草や雲、風や光が刻々と変化している様子を感じます。
絵の傘は、緑色ベースでいろいろな色を含む生地の日傘、親骨は8本・女性向け標準的な60cmくらい、中棒は茶色で木製のようです。手元は現在主流のJ型ではなく、まっすぐのようです。

「雨傘」 ルノワール(フランス)


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(全体)

ルノワールも印象派で有名ですが、この絵は右側が印象主義の技法、左側が古典主義の手法で書かれている珍しい絵になっています。
また、「雨傘」の題名通りたくさんの傘が描かれています。
タイプとしては、濃い青色無地の生地の雨傘、親骨は7本・女性向け標準的な60㎝くらい、中棒は茶色で木製のようです。
手元は現在主流のJ型ではなく、まっすぐのようです。石突や露先もわかりますね。

「パリの通り、雨」ギュスターブ・カイユボット(フランス)


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(全体)

こちらもフランスの画家で印象派に入りますが、より写実主義的な傾向が強いです。
遠近法や大胆な構図、色彩や丁寧な仕上がりなどが特徴的な絵です。
右手前の二人でさしている傘は、黒か濃いグレーの生地の雨傘、親骨は8本・二人で余裕があるので75㎝くらい、中棒は茶色で木製のようです。
手元は現在主流のJ型です。陣笠(以下参照)もはっきりわかりますね。もしかしたら手元から中棒、石突と1本の木から作られたソリッドタイプといわれるモノかもしれません。

「アンブレラ・プロジェクト」クリスト&ジャンヌ=クロード(アメリカ)

クリスト&ジャンヌ=クロード公式サイトhttps://christojeanneclaude.net/artworks/the-umbrellas/

1991年10月、日本の茨城県とアメリカのカリフォルニア州の谷間地域で、クリスト&ジャンヌ=クロードによるプロジェクト「アンブレラ、日本−アメリカ合衆国、1984∺91」が実施されました。
このプロジェクトでは、3,100本の巨大な傘が同時に開くことを行いました。
傘は支柱の長さが6メートルで、正八角形の傘布の対角線の長さは約8メートル半という大きなものでした。
茨城県の常陸太田市から里美村にかけての国道沿いには1,340本の青い傘が、カリフォルニア州南部のカーン郡からロサンゼルス郡にかけてのハイウェイ沿いには1,760本の黄色い傘が設置されました。

このプロジェクトが秋に実施されたのは、日本側が稲刈りが終わってからでないと田んぼに傘を立てることができなかったためです。
プロジェクトの主な狙いは、太平洋を挟んだ両国の谷間地域の生活様式や風土の相違点(場合によっては類似点)を浮き彫りにすることでした。
プロジェクトの費用は2,600万ドル(当時の日本円で約36億4千万円)に及び、クリストの過去のプロジェクトと同様に、彼ら自身のドローイング、コラージュ、ペインテッド・フォトグラフ、スケール・モデルの売却によってまかなわれました。
クリストは傘を使用した理由について、「傘は前後左右がなく、望んだ配置が可能である」と述べています。また、「傘は"壁のない家"であり、その下に入った訪問者は守られ、頭上の布に抱き込まれたような気持ちになるでしょう」とも述べています。
傘の高さを6メートルにしたのは、2階建ての家と同じ高さにするためであり、一辺2メートルの正方形の傘の台座カバーには人が座れるような構造が備わっていました。

『アンブレラ』の1本の傘のデータ

高さ(台座部分含む)6メートル
直径8.66メートル
重量(台座部分除く)203キログラム
布地部分の面積59.3平方メートル
支柱の直径21.9センチメートル
親骨の長さ4.77メートル
親骨(楕円)のサイズ長辺:9.5センチメートル

短辺:5.7センチメートル

受骨の長さ2.27メートル
受骨の直径7.6センチメートル
傘1本の部品総数470個
アンカーを含む標準鉄製台座1基の部品数64個

傘の先端には通常の傘にある石突や陣笠などの構成部品はなく、代わりに尖った形状が採用されました。これは傘を美しく見せるためのデザインであり、このデザインを実現するために傘の頂点には特殊なバネが取り付けられました。
この傘は業務用パラソルの大型サイズよりも大きく、デザインし3000本以上を作成して設置することは非常に大変な作業であり、ちょっとした家並みのサイズの傘を何千本も立てるその規模や芸術的な価値から見ると、まさに驚異的な芸術作品と言えるでしょう。

シュールレアリスムと傘


「ミシンと雨傘」マン・レイ(アメリカ)

ロートレアモン伯爵の「マルドロールの歌」に書かれている一節
「手術台の上のミシンとこうもり傘の偶然の出会いのように美しい」から

シュルレアリスムは、理性から解放された純粋な精神の表出を目指す芸術運動です。
シュルレアリストは活動の中で歴史的に無名だった芸術家や思想家を再発見し、先人として高く評価しました。
彼らがこの作品を愛した理由は、その中の一節にあります。

「手術台の上のミシンと雨傘の偶然の出会いのように美しい」。

主人公で詩人のマルドロールが暗黒と沈黙の街で出会った美少年を描写する部分です。
このように本来用途も使用場所もかけ離れたものが異質な場所で組み合わさることで、日常性の喪失と新たなイメージが生じることをシュルレアリストはデペイズマンと呼び、この手法の下で多くの作品を制作しました。

上の写真は、シュルレアリスムにおいて有名なミシンと傘の組み合わせを実物の作品として表現したものになります。
この傘は普通に使用されている傘となりますので、傘自体に特徴はありません。
しかしながら、実際には傘を作成する際に生地をミシンで縫っていく作業がありますので、この二つは全くかけ離れたもの同士ではないのですが・・・

「Nola 傘少女 ニューオーリンズに描かれた傘少女」バンクシー

バンクシーにより2008年にルイジアナ州ニューオーリンズのマリニー地区で制作されました。
Nolaは2008年にバンクシーによって制作されたストリートアート作品です。「傘少女」や「雨少女」とも呼ばれることがあります。
Artpedia アートペディア/ 近現代美術の百科事典よりhttps://www.artpedia.asia/banksy-nora/

まとめ

「傘」がテーマとなっている芸術作品について絵画を4つ、インスタレーション(場所や空間全体を作品として体験させる芸術)1つ、写真1つの合計6つ紹介しました。
これら以外には、日本画や浮世絵にも傘が描かれているものもありますが、それらは次の機会で紹介したいと思います。
最近は、アンブレラスカイという空中に傘を飾り付けるイベントや和傘を照明と組み合わせた飾り付けなど、いろいろなところで開催され、身近に傘のアートな面を感じることもあるかと思います。
傘自体にも芸術的な柄や装飾がされることもありますが、今回紹介した作品のように傘がモチーフとなった芸術作品も「傘」に注目しながらご鑑賞ください。

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