傘を取り巻く環境

日本の流通の歴史(洋傘を中心に)

第二次世界大戦が終了してから80年ほどが経ち、その時代経過とともに世の中もいろいろと移り変わっていきました。
高度経済成長の下で人口増加をベースに三種の神器と言われた家電が流行、生活レベルの向上による大量消費、その後人口が増えるどころか減ってきて消費も成熟化・多様化、へと流れています。

身のまわり品の一つである傘も時代の流れに乗って消費されてきました。
今では傘を購入するとき、店舗だけでなく色々なところから手に入れることができます。
日本の流通の現在の状況に至る流れとして、「傘」を軸に見てみましょう。

さまざまな小売形態の登場時期

日本では以下のように誕生してきました。

小規模小売店 百貨店1905年 スーパーマーケット1953年 ショッピングセンター1964年 コンビニエンスストア1969年 ディスカウントショップ1970年 家電量販店70年代前半 ドラッグストア1976年 100円ショップ1985年 アウトレットショップ1993年 ネットストア90年代半ば

国内の流通 戦後の流れ

昭和21年 戦後インフレ対策として行われた新円切替え、戦時利得没収のための財産税の徴収

昭和22年 インフレの抑え込みを狙い物価統制令施行、衣料品は切符制販売品となり洋傘も表向きは自由販売できなくなる。遵法販売をする百貨店は苦肉の策で始めた中古品の委託売場が活況を呈する

昭和23年 衣料チェーン量販店の草分けの長崎屋が平塚に1号店オープン
昭和24年 繊維製品の統制撤廃により自由市場復活
昭和25年 朝鮮戦争開始、景気上昇し糸へん景気と呼ばれる繊維・紡績産業が盛況
昭和28年 関西系初の百貨店として大井町に阪急オープン。銀座松屋がアメリカ軍内の売店から返還され、松屋名物の百傘会(洋傘販売企画で大掛かりな傘の飾り付けが有名)も復活する。日本初のスーパーマーケットといわれる紀ノ国屋が青山にオープン
昭和29年 朝鮮戦争終了後、経済不況となり繊維ブームも消え去る。東京八重洲口の地下商店街ができる。関西百貨店の大丸が東京駅にオープン、開店目玉の綿傘の安売価格は洋傘安売商法のはしり。
このころより関西系問屋の東京店設置が相次ぐ(橋本荘:ルピアン、河与商事:ムーンバット、西陣洋傘)。これにより販売対象地域の区分けはなくなり全国スケールの競争状態となる。
昭和30年 千趣会が設立
昭和31年 丸定商店(アイデアル)が大阪支店を開設。東光ストア(東急ストア)、西武ストア(西友)が設立。このころ総店舗数の92.4%が4人以下の零細商店。
昭和32年 横浜高島屋、そごう有楽町店がオープン。このころから鉄道始発駅に付設した電鉄系のターミナル型百貨店が増えてくる。
昭和33年 ヨーカ堂(イトーヨーカ堂)がオープン、神戸に主婦の店ダイエーがオープン
昭和34年 綿傘安売問題、米国の洋傘業者が対日輸入制限運動を起こし日本は洋傘骨の輸出規制を実施
昭和35年 ナイロン、テトロンの傘生地が一般市場に広まり、東洋レーヨン・日本レーヨン製傘生地仕様の折りたたみ傘がブームとなる。丸井が日本初のクレジットカードを発行。
昭和36年 東洋レーヨンが全国有料小売店を集めて東レサークルを結成。メーカーから小売りまで一貫したマーケティングを衣料分野に持ち込む。日本通販が設立。
昭和37年 東武百貨店、小田急百貨店がオープン。
昭和38年 西武ストアは西友ストアと改称、総合スーパーのニチイが4社合併により発足。
昭和39年 東京オリンピック開催。関西スーパーのダイエーがスーパー一徳を買収して首都圏に登場。
京王百貨店オープン。日本初のショッピングセンターとなるダイエー庄内店開店
昭和40年 コンパクト傘、ジャンプ傘のブーム到来。
昭和41年 婦人式3段式折りたたみ傘人気、日本チェーンストア協会結成
昭和42年 テイジンのピーコックキャンペーンにより紳士物の色認識が変わる。紳士物のカラー洋傘・柄物洋傘の拡販がすすみ、伊勢丹新宿店の新館がすべて紳士用品となる。子供洋傘のキャラクター商品が氾濫する。
昭和43年 ダイエーが大阪府寝屋川市に「香里ショッパーズ・プラザ」をオープン。郊外に400台分の駐車場を備えた大型ショッピングセンターのはしりで、以降このようなスタイルが増大していく。
昭和44年 ダイエーと首都圏中堅量販店のサンコーの提携。3社提携によりジャスコが発足。納入業者も整理再編成が行われる。玉川高島屋ショッピングセンターがオープン。五反田の東京卸売センター(TOC)の建物が完成。
昭和45年 日本で万博開催。ブランド商品の展開、トータルファッションの展開によるアパレル業者の洋傘取扱いなど新しい流通チャネルが始まる。ニッセンが設立。
昭和46年 ドル・ショックの影響で洋傘の輸出に打撃。中進諸国地域からの輸入増を招く。
昭和47年 ダイエーが三越を抜き小売業売上高トップになる。ディノスがテレビショッピング開始。
昭和48年 石油ショックによるプラスティック製の手元等の価格上昇。
昭和49年 スーパーマーケットの進出等から中小小売店を保護するための大規模小売店法の施行。その後小規模店舗は急速に減少していく。イトーヨーカドーがセブンイレブンを豊洲にオープン。
昭和50年 ダイエーがローソンをオープン。
昭和53年 西友がファミリーマートをオープン。
昭和56年 日本最大級のショッピングモール ららぽーとTOKYO-BAYオープン
昭和50年代より日米の貿易不均衡による経済摩擦が問題となり、日米構造協議が始まる。その結果、大店法の撤廃や酒類販売業など数々の免許制、運送業に関する許認可制などに関する規制緩和や取引慣行の改善が要求された。
1990年の日米構造協議から大店法は規制緩和の流れへと向かい、メーカーや卸売業は大規模小売業に流通の主導権を奪われることとなり、大規模小売業によるメーカーや卸売業の再編が行なわれるようになった。
昭和60年 愛知県春日井市に日本初の固定店舗による100円均一店オープン
平成3年  100円ショップチェーン最大手の大創産業(ダイソー)最初の常設店舗を開設
平成5年  埼玉県入間郡大井町(現在のふじみ野市)に初のアウトレットモール「アウトレットモール・リズム」開業
平成8年 新宿高島屋オープン
平成9年  株式会社エム・ディー・エム(現 楽天グループ株式会社)が「楽天市場」のサービスを開始
平成10年  アマゾンジャパン株式会社がサービスを開始
平成11年 日本橋東急閉店、オークションサイト「Yahoo!オークション(現ヤフオク!)」サービス開始
平成12年 そごう、長崎屋倒産
平成13年 マイカル倒産
平成14年 ダイエー産業再生法を申請、ウォルマートが西友を買収
平成15年 西武百貨店とそごう統合、六本木ヒルズがオープン
平成17年 仏カルフール撤退
平成18年 阪急阪神ホールディングス発足、ららぽーと豊洲、表参道ヒルズがオープン
平成19年 新丸ビル、東京ミッドタウンがオープン
平成22年 有楽町西武撤退
平成23年 三越伊勢丹発足
平成24年 渋谷ヒカリエがオープン
平成25年 イオンがダイエーを子会社化、フリマアプリ「メルカリ」サービス開始
平成27年 セブン&アイがバーニーズジャパンを子会社化
平成28年 セブン&アイがニッセンを子会社化

業態ごとの販売額

現在、バブル崩壊後にデフレが長く続く状況において、消費者の低価格高品質・利便性・個別化の傾向はより強くなりました。
そしてコンビニ、ディスカウントストア、百円ショップ、アウトレット、ネットショップなどが定着し小売業のなかでも大きな割合を占めています。

(図)2021年 主要な業態からみる商業販売額 経済産業省「商業動態調査」より

2022年度 小売業の売上高&営業利益ランキング

順位会社名売上高営業利益営業利益率
1イオン8兆3900億1200万円2102億7300万円2.51%
2セブン&アイ・HD6兆378億1500万円3916億5700万円6.49%
3ファーストリテイリング2兆1300億6000万円2362億1200万円11.09%
4ヤマダ電機1兆5738億7300万円387億6300万円2.46%
5ユニー・ファミリーマートHD1兆2753億円279億7400万円2.19%
6三越伊勢丹HD1兆2688億6500万円244億1300万円1.92%
7高島屋9495億7200万円353億1800万円3.72%
8ドンキホーテHD9415億800万円515億6800万円5.48%
9エイチ・ツー・オー リテイリング9218億7100万円227億6500万円2.47%
10ビックカメラ8440億2900万円270億5500万円3.21%
11イズミ7298億5700万円384億8700万円5.27%
12ウエルシアHD6952億6800万円288億2600万円4.15%
13エディオン6862億8400万円153億7800万円2.24%
14ケーズHD6791億3200万円307億6400万円4.53%
15ライフコーポレーション6777億4600万円120億9400万円1.78%
16ユナイテッド・スーパーマーケット・HD6775億5700万円140億6800万円2.08%
17ツルハHD6732億3800万円402億3600万円5.98%
18ローソン6573億2400万円658億2000万円10.01%
19ゼンショーHD5791億800万円176億1100万円3.04%
20ニトリHD5720億6000万円933億7800万円16.32%
21しまむら5651億200万円428億9600万円7.59%
22サンドラッグ5642億1500万円360億8000万円6.39%
23マツモトキヨシHD5588億7900万円335億6500万円6.01%
24コスモス薬品5579億9900万円227億4900万円4.08%
25バローHD5440億2000万円134億7000万円2.48%
26アークス5139億5500万円144億4000万円2.81%
27ノジマ5018億9000万円170億4400万円3.40%
28J.フロント リテイリング4699億1500万円495億4600万円10.54%
29スギHD4570億4700万円247億6000万円5.42%
30DCMHD4435億7800万円195億700万円4.40%
31平和堂4381億3200万円139億1900万円3.18%
32ヤオコー3982億2800万円169億6900万円4.26%
33上新電機3917億2600万円96億8000万円2.47%
34ココカラファイン3909億6300万円137億1200万円3.51%
35良品計画3795億5100万円452億8600万円11.93%
36アスクル3604億4500万円41億9200万円1.16%
37コメリ3419億5600万円169億6400万円4.96%
38コーナン商事3160億8100万円173億7200万円5.50%
39ゲオHD2992億6200万円146億6800万円4.90%
40フジ2985億7300万円72億3800万円2.42%
41近鉄百貨店2822億1100万円48億8700万円1.73%
42マックスバリュ西日本2701億6900万円47億200万円1.74%
43アインHD2683億8571万円196億2200万円7.31%
44カワチ薬品2682億500万円45億7300万円1.71%
45クリエイトSDHD2681億6100万円138億6100万円5.17%
46オークワ2595億2300万円21億4400万円0.83%
47青山商事2548億4600万円205億9100万円8.08%
48エービーシー・マート2542億8300万円433億8600万円17.06%
49コジマ2463億9100万円42億4800万円1.72%
50いなげや2459億3200万円35億9700万円1.46%

二次流通について

「二次流通」とは、市場に出回った商品が消費者の手に渡り、再び販売されることを指します。代表的な例としては、古着屋や古本屋、リサイクルショップなどがあります。
一般的には中古品販売と結び付けられますが、新品のままで販売される場合もあります。

最近では、フリマアプリの台頭により、個人間での二次流通も一般的になりました。特に有名なメルカリは、2021年6月時点で1954万人のユーザーと、年間流通総額2082億円に成長しました。さらに、メルカリが展開する決済サービス「メルペイ」も独自の経済圏を形成しています。

二次流通市場は拡大傾向にあり、2020年の市場規模は前年比2.5%増の2兆4169億円でした。2022年には3兆円に達すると予測されていました。また、個人間取引(CtoC市場)が1兆583億円(43.8%)を占めています。

市場拡大を牽引しているのは、アパレル業界です。2020年のアパレル市場の規模は、前年比11.1%増の4010億円となりました。他の分野と比べて成長率が高く、市場規模も最も大きいです。二次流通市場では、アプリを介した個人間取引(CtoC)が43.8%を占め、次に店舗販売(BtoC)が36.7%、ネット販売(BtoC)が17.9%となっています。

傘の販売においても、時代の変化から一次流通から二次流通への移行が予想されます。また、個人間取引のアプリ上で新品商品を小売りするパターンも存在し、企業にとって新たな販路となる可能性があります。

さらに、商品が市場に出る前の段階での購入を指す「0次流通」という言葉も登場しています。展示会商品や購入型クラウドファンディングなどが該当します。
二次流通は、消費者にとって良い商品を手に入れる手段であり、環境にも貢献する持続可能な流通の一つです。

シェアリングエコノミー

総務省によると、「シェアリング・エコノミー」とは、個人などが持っている資産や物品を、インターネット上のマッチングプラットフォームを通じて他の人にも利用させる経済活動のことです。
物を所有せずに、必要な時に貸し借りしながら利用する方法で、個人だけでなく企業や団体でも行われています。
日本では1999年に「Yahoo!オークション」が始まり、個人間で物の売買ができるようになりました。
2000年代に入ると、カーシェアサービスの「オリックスカーシェア」や「タイムズカーシェア」が始まりました。
アメリカでは、旅行者に家を提供できる「Airbnb」というプラットフォームが2008年に登場しました。

傘に関しても、2018年に「アイカサ」というシェアリングサービスがスタートしました。
このサービスでは、自分が傘を持っていない時に雨に降られても、近くにある傘の貸し出しポイントでビニール傘を借りることができます。
他にも「エアカサ」や「ダイドードリンコのレンタルアンブレラ」といった傘のシェアリングサービスも存在します。

つまり、シェアリング・エコノミーは、所有しなくても必要な時に利用できる経済活動のことであり、インターネットを通じて個人間で資産や物品を共有することができる仕組みです。
これにより、必要なものを手軽に利用できるだけでなく、資源の有効活用や経済の活性化にもつながります。

まとめ

自分専用の傘を所有するのか、皆と共有の傘を利用するのか、それぞれの人の傘に対する考え方により変わってきます。
それは傘に限らず様々な物において現在起こっていることです。
時代によって人々の考え方や生活における便利さが変化しているため、その変化に企業や消費者は対応していかなければなりません。
また、ほとんどの物はすでに所有しているという成熟した状況、情報があふれているなかでの嗜好の多様化についても同様に対応していく必要があります。
今後、世の中の消費がどのように進むのか、それに伴い流通業界もどのように変化していくのか、そして傘はどうなっていくのか、気になるところです。