皆さんはモノを買うときに「なんでこんなに安いのかな?」と思ったことはないでしょうか?
お店や生産者の努力によって消費者に低価格で提供している例が多いと思いますが、中には努力が行き過ぎて利益が無いような状態や取引先に多大な負担をかけて提供していることもあるようです。
安いからと言って、取引にかかわる人たちが誰も幸せにならないようなモノを買うことに対して、間違っていると考える人は増えてきました。
またそのような問題意識の中から「ザ・トゥルー・コスト ~ファストファッション 真の代償~」や「おいしいコーヒーの真実」、「バレンタイン一揆」などの映画がつくられています。
そんな「フェアトレード」や「エシカル」という言葉が意味するところを紹介します。
フェアトレードとエシカルと傘の関係性
フェアトレードとは
フェアトレードとは、先進国の消費者と開発途上国の生産者が、互いに尊重し合いながら行う貿易のことです。
フェアトレードの目的は、生産者に公正な対価を支払い、労働条件や人権を守ることで、貧困や不平等の問題に取り組むことです。
開発途上国では、コーヒーやチョコレートなどの商品を低価格で売らざるを得ない状況にあります。その結果、生産者は十分な収入を得られず、教育や医療などの基本的なサービスにもアクセスできません。また、市場の要求に応えるために、環境に悪影響を及ぼす農法や児童労働などの問題も発生しています。
フェアトレードは、消費者が開発途上国の商品を適正な価格で購入することで、生産者の収入や生活水準を向上させ、自立や自発的な開発を促進する「公正な貿易の仕組み」です。
フェアトレードは、消費者と生産者がパートナーシップを築き、品質や環境に配慮した商品を提供することで、持続可能な社会づくりに貢献しています。
参考:フェアトレードジャパンhttps://www.fairtrade-jp.org/about_fairtrade/course.php
フェアトレードの認証団体
① WFTO(World Fair Trade Organization)
1989年に誕生したフェアトレード団体の世界的なネットワークです。
フェアトレード商品の生産、輸出、輸入、販売、およびフェアトレードの推進活動を行う団体や個人がメンバーとなっています。メンバーは特定の基準を守ることが求められ、商品ではなく団体としてフェアトレード認証を受けています。そのため、商品ごとにWFTOのラベルを付けることは認められていませんでした。
しかし、2013年のリオデジャネイロでのWFTO世界会議で、新たな団体認証システム(Guarantee System)が導入されました。このシステムでは、メンバーになる手続きやフェアトレードの基準を遵守しているかを評価し、これをパスした団体は商品にWFTOのラベルを付けることができるようになりました。
・WFTO参加団体認証ラベル
WFTOに加盟するフェアトレード団体(企業を含む)であることを認証するラベルです。上記の国際フェアトレード認証ラベルが商品ごとの認証であるのに対して、こちらのラベルは団体の活動すべてがWFTO基準を満たしていることを示すものです。
公式サイト https://wfto.com/
10のフェアトレード基準(WFTO)
② FLO(国際フェアトレードラベル機構、現Fairtrade International)
「フェアトレード商品」の認証ラベルは、消費者に商品の生産過程や品質を伝えるとともに、生産者に公正な取引を保証する役割を果たしています。
フェアトレードの考え方は世界中に広まり、地域ごとに独自のラベルが作られましたが、それぞれの基準や審査方法には違いがありました。
そこで、FLO(国際フェアトレードラベル機構、現Fairtrade International)が1997年に設立され、フェアトレードの共通の定義や基準を策定しました。2002年には、世界で統一された認証ラベルの制度が確立され、2004年には専門の認証機関である「FLOCERT」が設立されました。これにより、フェアトレード商品の信頼性や透明性が高まりました。
公式サイト https://www.fairtrade-jp.org/
国際フェアトレード認証ラベル
国際フェアトレード認証ラベルは、国際フェアトレード基準に照らして原料生産・輸出入・加工・製造の各工程がフェアトレードだと認められた製品であることを証明するラベルです。
③ Fair For Life(FFL)
エコサートグループ オーガニックの認証機関としては世界最大規模
公式サイト https://www.fairforlife.org/
④ フェアトレードUSA
もともとは国際フェアトレードラベル機構(FLO)のメンバー組織でしたが、2012年に分離
公式サイト https://www.fairtradecertified.org/
エシカルとは
フェアトレードに関する言葉としては、「エシカル」や「サスティナブル」もよく聞かれます。「エシカル(ethical)」とは、「倫理的・道徳的な」という意味の英語です。
「エシカル消費」「エシカル製品」などの言い方で使われることが多くなっています。
「倫理的な」という言葉だけではあまり具体的ではありませんが、「エシカル消費」や「エシカル製品」は、地球の環境や、人間、社会に優しいものを選んで買ったり使ったりすること、またそのようなもののことを言います。
エシカル消費には優しい対象が、「人間・社会」「地球の環境」「地域」の3つに分けられますが、フェアトレードの製品を買うことは「人間・社会に優しいエシカル消費」と言えるでしょう。
フェアトレードのメリット
フェアトレードは第一に、生産者の生活を支えることができることがメリットです。
生産者に対等な対価を支払うことで生活を向上させ、貧困の減少へとつなげます。労働者が過酷な環境で働くことや、子どもが学校に行けずに働くことも無くすことができるでしょう。
また、フェアトレードは持続可能な原材料の管理を行い、人と環境に配慮した経済活動を広めています。そのため、環境保護の観点からも効果があると言えます。
フェアトレードを続けることで、消費者は社会や環境に配慮した買い物を選択できます。一方、生産者は生活が安定し品質の向上につながるという良い循環を生み出すことができるのです。
アパレル業界のフェアトレード
アパレル業界でもフェアトレードは非常に注目されています。そのきっかけは、ある悲惨な事故があったことです。
ラナ・プラザの悲劇
2013年4月24日、バングラデシュで死者1,100人以上、負傷者2,500人以上の死傷者を出す事故が起こりました。
首都ダッカ近郊のファストファッションの縫製工場が入ったビル「ラナ・プラザ」が崩落したのです。事故前日、縫製工場の従業員の方々は、ビルの壁や柱にひびが入っているのを発見していました。上司に報告したものの無理やり働かされ、翌日もミシンなどの機械を稼働。その振動が建物を揺らし、崩落を引き起こす原因となりました。
フェアトレードはこの悲劇をきっかけに、ファッションの分野で広がりを見せます。
劣悪な労働環境
救えたはずの命が多数失われたことに、世界中の人々は衝撃を受けました。以降、自分が着る服の生産過程に意識を向ける動きが活発化し、フェアトレードはファッションの分野で存在感を増していきます。
バングラデシュにおいて、アパレル産業は国内輸出の約80%を占める主力産業です。しかし、この崩落事故をきっかけにその労働環境が非常に劣悪であったことが明らかになりました。そしてその背景には、先進国のファストファッションブランドが、安価に大量生産を行うための労働力として、発展途上国に依存しているという事実がありました。
エシカルファッション・サスティナブルファッション
従来、アパレル業界は素材メーカー、生産工場、物流会社、小売店など、さまざまな企業の分業によって成り立つビジネスモデルでした。
そのため、自社ブランドの製品の生産背景を知らない、ということも珍しくなかったのです。しかしフェアトレードの意識が高まってきている今「この服はどこで作られたのか」と、生産背景を明らかにしている企業が増えています。
「エシカルファッション」や「サステナブルファッション」、こんな言葉をうたっているブランドを耳にしたことはありませんか?
「エシカルファッション」は、直訳すると「倫理的・道徳的なファッション」のこと。具体的には、素材の選定や生産、販売までの全ての工程において、人と地球環境に配慮したブランドのことを指します。
また「サステナブルファッション」は、その名の通り「持続可能なファッション」のこと。こちらも人や環境に負荷をかけることなく、半永久的に続けられる洋服作りを目指したブランドのことです。
ファッション業界は、服を生産する際に大量の廃棄物や汚染水などを出すことから、環境汚染への影響度が非常に高い業種と言われています。また労働者の職場環境や、動物の権利にも配慮することが、ファッション業界におけるサスティナブルといえます。
オーガニックコットン
服の原料となるコットン(綿)も、フェアトレードの代表的な製品です。コットンは70カ国以上で生産されており、西アフリカやアジアの途上国におっては貴重な輸出品です。しかし、価値に見合わない不当な貿易を強いられている現状があります。
生産コストを下げるために危険な農薬が使われるケースもあり、環境破壊や生産者への健康被害が問題となることもあります。
国際的なフェアトレードの基準においては、オーガニック栽培のコットンには価格を上乗せするなどの対策を実施し、これによりオーガニック農法へ切り替える地域も増えつつあります。
フェアトレードの市場規模
フェアトレード認証製品の市場規模は2022年に195.6億円に達しました。これは2021年の157.8億円から24%の増加であり、過去10年間で最も高い成長率です。国内のフェアトレード市場は大きく拡大しており、消費者の関心や需要が高まっていることを示しています。
売上の伸びには、業務用や小売用のカフェ商品が好調だったことや、チョコレートやコットン製品、紅茶などの商品も人気を集めたことが影響しています。
この背景には、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に関する認知度やメディアの注目度が高まり、消費者が日常的に社会貢献できるフェアトレード商品に関心を持つようになったことが大きな要因です。また、企業もSDGsに対する取り組みの一環として、フェアトレード商品をノベルティや社内カフェで使用するなどの活動を増やしています。
フェアトレード支持の動き
近年気候変動や人権問題への危機感も背景にSDGsへの関心が急拡大する中、フェアトレードは環境・人権の両側面にアプローチ出来る仕組みとして、Z世代を中心に消費者からの支持が集まっています。
そうした消費者のニーズの変化に加え、自社のサプライチェーンの透明性向上や原材料の継続的な確保の手段としても企業から注目され、フェアトレード認証参加組織数も2022年は252社と昨年から3.7%増加(2021年は243社)しました。
フェアトレード・インターナショナルの本部があるドイツと日本の市場規模を比較すると、ドイツは2,727億円と、日本の約17倍。一人当たりの年間購入額が最も多いスイスと年間購入額を比較すると、スイスは12,765円と日本の約101倍という結果となりました。欧州諸国で規模が大きい背景には、消費者の環境・社会課題に対する意識の高さや、フェアトレードの認知の高さを受けて、企業が積極的にフェアトレードを取り入れる傾向があります。
参考:フェアトレードジャパン ホームページより
https://www.fairtrade-jp.org/news-detail.php?id=160
傘の場合は?
傘は現在フェアトレードの対象にはなっていませんが、日傘の生地などで使われる綿(コットン)はフェアトレードの代表的な商品になります。
また、現在日本で流通している傘はほとんどが海外でつくられた輸入品であり、中国が第1位、カンボジアが第2位の輸出国になっています。
傘は労働集約型の産業で人手が必要な作業が多くあります。コンビニなどの数百円で売られている傘を考えてみれば、原材料費と人件費、輸送代などがかかる中で製造者や販売者の利益を成立させるには大量に扱わなければならないことは明白です。
不必要なほどの大量生産と大量消費を前提としたビジネスモデルの上に成立しているので、弱い立場のメーカーは十分に利益を得ることができないかもしれません。
物を買うときは、安さばかりを求めることに対する裏の面を理解して行動していきましょう。
日本からみた洋傘の輸出入について書いた記事です。