傘と文化との関係

傘が主役!? 笑いと哀愁、落語の傘たち

元禄のころより民衆に向けて始まった落語は、今も人気のあるエンターテイメントの一つです。
高座に上がり着物姿で扮装もせず、基本座ったままで体一つを使い、話だけで芸を完結するミニマムな芸です。好きな方は演芸場に行ってライブで体験したり、映像で好きな時間に楽しんだりしていると思います。
長年、庶民を楽しませている落語の中には「傘」が出てくる話もいろいろとありますので、そのような演目の傘が出てくる場面について傘マニア的視点から紹介したいと思います。

金明竹

今度は店番をしていると、雨が降ってきた。雨宿りの見ず知らずの人に良い傘を貸すので叱られ、傘を借りに来た人への断り方を教えられる。
鼠が出たので猫を借りに来たお隣の大宮さんに、「貸し猫はあったが、骨はバラバラ、皮は破れて使い道がないので、縄で縛って裏に放り込んである」。
また叱られて、続けて猫の断り方を教えて貰った。

→間抜けな与太郎がいろいろと問題を起こす話です。
今の時代、見ず知らずの人に傘を貸してほしいといわれる機会はなかなかないのではないでしょうか。
傘調査2022によると日本人の傘の平均保有数は4.2本とのこと、うちビニール傘は1.6本持っているとのことですので、もし与太郎が見ず知らずの人に貸してほしいといわれたときはビニール傘を貸すのではないでしょうか?

傘の化け物

武者修行の侍が山中で道に迷い、一軒のあばら家を見つけるが、女の一人暮らなのでと断られる。
物置の隅でもいいからと言って入れてもらうと、この女が大変な美人。
話をするうちに、立て膝をしたり、流し目をしたり、色っぽいのでたまらず、女に抱きつくとたんに、見事に投げ飛ばされてしまった。
はっと気が付くと野原の真ん中。傍らに破れ傘が一本落ちている。
「さては傘の化け物であったか。どうりでさせそうでさせなかった」

→オチのダブルミーニングがカギの話です。
「さす」や「かさ」につながる話であれば他のパターンもいろいろありそうです。
「傘」だけに・・・のパターンですね。

道灌

その時家来の一人が「それは、『七重八重花は咲けども山吹の実の(蓑)ひとつだになきぞかなしき』
と言う古歌になぞらえて雨具のない事の断りでしょう」と説明をした。
道灌公は「余は歌道に暗い」と嘆かれた。その後勉学に励まれ日本一の歌人になった。その歌を書いてもらって、傘の断りの歌にしようと持って帰ってきた。
村雨が来たので、いろんな道灌が居る中に、家に飛び込んできた友人の道灌が居た。
借り物をしたいと言う。「傘だろ」、「傘は持っているから、提灯を貸してくれ」と言う。
「提灯は貸すから、傘を貸せと言え」という。
そのように「じゃー、傘を貸してくれ」と言うと、先ほどの歌をチンプンカンプンに読み下すが、「都々逸か?」というほど、お互い意味判らず。
そのような相手に「おまえは歌道が暗いな」と言うと
「角が暗いから提灯を借りに来た」。

→ご隠居から教わったことを真似してやろうとするがうまくいかないパターンの話です。
ちょっとしゃれたことを言ってみたくなる気持ちはよくわかりますね。
また、金明竹にもありましたが、当時は傘を借してくれという人がやたらに多かったから、断ることについて「あるある」と共感してもらえる話となったのでしょうか。

吉原綺談(芳原奇談雨夜鐘)~古今亭志ん生

二人から話を聞いた橘、「悔しい あの人はどこまで私を騙すのか」と髪を掻きむしり、柱に額をぶつけて額を割り、舌を噛み切って息が絶えてしまいます。
二人の侍は急いで吉原を後にします。雨が降ってきまたしたので傘と提灯を借り、吉原田んぼへかかってきますと、強い風に灯が消えます。
後ろにパッと灯りが差して後ろを振り返ると、橘楼辺りから人魂が飛んでくる。
びっくりして走り出すと傘が重くなる。見ると人魂が傘の上の乗っている。傘を投げ捨て、屋敷に走り込みます。

→怪談で、善人が損をして悪人が得をするという話です。
人魂が乗っても燃えない傘ということは、種類にもよりますが耐熱温度がポリエステル繊維ですと120~160度、ナイロン繊維は80~140度とのことですので人魂はかなり温度の低い炎なんですね。
炎の種類によっては手に乗せることができるくらい低温のものもあるようです。

雨夜の傘

外に出ると雨が降っているので、堂庵に傘を借りて、お絹さん三次の相合い傘で鍋島さんの蔵屋敷の方に向かって歩き出した。
農人橋に差しかかった時には陽もとっぷりと暮れておりました。
(下座から三味線とドロドロの太鼓が入る)
「小用を足したいので、傘持って向こうを向いていてくれ」と頼んだが、その時、出刃包丁でお絹さん刺し、「お絹さんには恨みはないが、恨みが有るなら堂庵さんの所に行って・・・」、と腹をグリグリえぐり、血だらけになった身体を下の川に投げ込んだ。

→怪談で不幸な人が救われないやるせない終わり方をするタイプの話です。
夜に傘をさすとき、現在は自動車に注意しなければならないので、反射材の付いた傘や光る傘などが役立つのではないでしょうか。
もしくは自分自身が目立つ格好をすることでも、相手に良く見えるようになるのでいいかもしれません。

心中時雨傘

時ならぬ雨で、白張りの番傘を1本買い求め、近所の天麩羅屋で夕食を済ませ、ひとつ傘に入って歩くと、娑婆ともこれでお別れかと思うと鹿島立ちの心境になった。
これから誓願寺裏に出て、松葉町から坂本に出て、お諏方神社の境内に上がってきました。
日暮里花見寺の垣根が壊れているところから墓地に入り、母親の墓にこれからの事を報告、人の気配を感じたのでお諏方様に戻って暗がりの中にいたが、手に当たるものがあった。
矢立であった。最後に何か書き残せとのお諏方様のお告げではないのかと、番傘の裏に書き止めた。
”わたしたちはふうふもの、どうかいっしょにうめてください。十一がつ二十一にち 金三郎、初”としたためた。

→最後、心中に向けた場面で傘が遺言を残すツールとして登場します。
現在の洋傘では傘生地はナイロンやポリエステルなどの合繊がほとんどです。それらに文字や絵を描くにはアクリル絵の具が良いようです。
また油性マジックは乾いた状態の傘だとにじんでしまう可能性があるため、しめらせた状態の方がうまく書けるそうです。

<紙上落語 柳家花いち>思い出の傘

→全編傘をテーマにした創作落語です。出先で雨が降ったときに、つい買ってしまうビニール傘が話の発端となっています。
傘を持ってないときでも、ビニール傘はコンビニなどで簡単に買うことができるため便利ではあります。
一方ですぐ壊れることからビニールの廃棄に関する問題、安易に他人の傘を持って行ってしまう問題、大事に扱わず置き忘れてもそのまま取りに行かない、などの問題があります。
大切なお気に入りの傘を長く使っていくことが環境にもモラルにもいいはずです。

笠碁

どうにもがまんができなくなり、こっそり出かけてようすを見てやろうと思うが、あいにく一本しか傘がないので、かみさんが、
「持っていかれると買い物にも行けない」
と苦情を言うから、しかたなく大山詣りの時の菅笠をかぶり、敵の家の前をウロウロと行ったり来たり。

→下手な碁好きのだんな二人がけんかして仲直りする話です。
傘の必要な本数ですが、やはり家族の数プラスアルファはあった方がいいです。
雨の日に皆で外出することもるでしょうし、プラス来客がある場合や連日雨降りが続き、傘をローテーションする場合などもあるでしょう。
学校や勤務先に置き傘をするのであれば、その分も必要になりますね。

中村仲蔵

ちょうど満願の日、法恩寺橋まで来ると急な雨、そばの蕎麦屋で雨宿り。考えるのは初日も近づいたがまだ工夫が浮かばない定九郎の役のことばかり。
そこへ、「ゆるせ」と入って来たのが浪人風の武士。年頃、三十二、三、背が高く、細身で色白、五分月代、黒羽二重の紋付に茶献上の帯、大小を落とし差しにして、尻をはしょり、破れた蛇の目傘をポーンとそこへ放り出した。
月代から垂れるしずくをぬぐい、濡れた着物の袂のしずくを切っている。
妙見様の引き合わせか、仲蔵は「これだ」と喜び、妙見様へお礼参りをして帰って支度に取り掛かった。

→歌舞伎役者 中村仲蔵が役作りに困っていた時にちょうどいいモデルに出会った場面です。
絵になる人もいろいろといるでしょうが、傘を持った姿が絵になるというのもポイントが高いのではないでしょうか。
傘をさしているときや閉じて持っているときのスマートなしぐさを身に着けたいですね。

まとめ

傘が登場する9つの落語について登場場面を中心に紹介しました。
傘を使う仕草はどんな人でも大体同じですので、すぐ目に浮かびますね。
話の中で基本的に傘が出てくるところは全体の中の一部分ですので、これをきっかけに頭から最後まで聞いてみてはいかがでしょうか。
これら以外にも傘の登場する落語を知っていましたら、ぜひこちらまで教えてください。

怪談のように怖いといえば「お化け」