傘と文化との関係

「傘」のお化け、妖怪について

昔から使われている身近な道具の一つである傘ですが、永く使われているからこそいろいろな文化と関係してきます。
書籍や映画で象徴的に使われることや、祭りや歌舞伎などの演芸でキーアイテムとして使われることは分かりやすい一例です。
一方、多くの人によく知られていますが実際に体験していないものとして、お化けや妖怪などの言い伝えも民間伝承的な文化といえるのではないでしょうか。
今回は「傘」をモチーフにしたお化けや妖怪について、どのようなものがあるかまとめてみました。

1.から傘小僧、唐傘お化け

日本の妖怪の一種で、傘(からかさ)の妖怪。から傘おばけ、傘おばけ、傘化け(かさばけ)、一本足(いっぽんあし)、からかさ一本足(からかさいっぽんあし)、おばけかさ などとも呼ばれます。
捨てられた唐傘が恨みの力で妖怪へと変貌したものです。
その姿は古びた傘から伸びる足が一本、一つ目に長い舌を持っており二本の腕が生えているものが有名で、中には人型の怪物の身体に頭部が傘になったものもいます。

江戸時代以後に作られた草双紙やおもちゃ絵、百鬼夜行之図といった図画、かるた(『お化けかるた』など)歌舞伎に姿が見られるほか、明治・大正時代以後も玩具や子供向けの妖怪関連の書籍、お化け屋敷の演出、アニメ、映画などに見られます。

古い器物が年月を経て妖怪になる。唐傘おばけはそうした付喪神(つくもがみ)の一種であり特にポピュラーな存在といえます。地域に密着した伝承が確認されていないので、創作の中の妖怪に分類されることもあり、具体的に何をするのかよくわかっていないお化けです。


唐傘お化けの出てくる作品として
TVアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』に「唐傘の傘わずらい」という話があります。
ビニール傘を粗末に扱うことに怒った唐傘が・・・というお話です。機会があれば一度どうぞ。
また、第1回日本ホラー映画大賞の「オカルト部門賞」を受賞したヤマモトケンジ監督の「傘カラカサ」も唐傘お化けをモチーフにしています。

2.雨降小僧

江戸時代の鳥山石燕の妖怪画集『今昔画図続百鬼』に妖怪画があり、中骨を抜いた和傘を頭に被り、提灯を持った姿で描かれています。解説文には、中国の雨の神である「雨師」に仕える侍童(貴人に仕える子供)であることが述べられています。

『東北怪談の旅』という本では岩手県上閉伊郡の仙人峠で狐が結婚式を挙げるために雨を降らしてほしいと頼み、快く承諾した雨降小僧が提灯を揺らして雨を降らし、その中を狐の嫁入りが続いていったという話が紹介されています。

昭和・平成以降の妖怪関連の文献によると、傘を雨降小僧から奪って被ると、後で頭から取れなくなると言う話や、通り雨を降らせ、人が困る様子を見て喜ぶとの話、などいたずら好きな妖怪と紹介されています。

また、手塚治虫の短編作品として、古傘の妖怪・雨ふり小僧と少年の友情を描いた「雨ふり小僧」が知られています。

まとめ

色々調べてみましたが、傘に関係するお化けや妖怪、怪物といったものはこの二つだけでした。どちらもものすごく人を困らせるというタイプではないように思われます。

海外では唐傘おばけのように物が霊的な存在となって人に働きかけるというものがなく、国内でも江戸時代に創作された妖怪のため、特定の地域の伝承となっているものではないようです。
森羅万象、八百万の神の国ならではのお化けといえるのでしょうか。

唐傘おばけの場合、壊れて打ち捨てられた傘の様子が擬人化したときに多くの人の共感を得たのかもしれません。
現在も豪雨の後で道ばたに壊れたビニール傘が捨てられているのを見ることがありますが、もしかしたらその傘が深夜に唐傘おばけになって夜の街を徘徊しているかもしれません。