傘と文化との関係

相合傘 その由来から関連作品、異文化間の人の距離感と関連性

「相合傘」という言葉を知ってますか?辞書には以下のように説明されています。

デジタル大辞泉「相合傘」の解説
あいあい‐がさ〔あひあひ‐〕【相合(い)傘】
1 二人で1本の傘を差すこと。多く、男女の場合についていう。相傘あいがさ。最合もやい傘。
2 男女の仲を示すいたずら書きの一種。簡単な線書きの傘の柄の両側に二人の名前を書くもの。

最近の子供は分かりませんが、私の小さなころは相合傘の落書きなどを教室の黒板によくしていた思い出があります。好きとか嫌いを意識し始める時期にちょうどはまっていたのかもしれません。
雨のなか二人が一つ傘の下にいることは、何かしら意識されるところから物語性が生まれさまざまな作品となったのだと思います。
そんな相合傘の言葉の由来と関連する作品、相合傘が意識される空間について紹介します。

相合傘の語源・由来

相合傘は江戸時代から用いられている語で、相合傘を書いて男女の間柄を表す落書きも江戸時代から見られるとのこと。
相合傘の「相合(い)」は、一緒に物事をしたり、共有・供用することの意味で、近所で共同に使う井戸の「相合井戸」、牛を供用する「相合牛」、男女二人が一本のキセルでタバコを吸う「相合煙管」など、「相合」の語は広く用いられたそうです。
「相」も「合い」も、動詞「合う」の連用形で、「互いに」「一緒に」を表してます。

相合傘で有名な映画や曲といえば

「男はつらいよ 寅次郎相合い傘」

寅さんシリーズの中でも人気の高い作品の一つです。寅次郎とリリーの相合い傘のシーンは、タイトルの由来ともなったもので、シリーズ屈指の名場面として名高いといわれています。
松竹シネマクラシックス https://www.cinemaclassics.jp/tora-san/movie/15/

その他にも以下の作品があります。

映画「あいあい傘」

俳優で脚本家の宅間孝行が2007年、当時主宰していた劇団「東京セレソンデラックス」で上演し、生き別れた娘と父の再会を描いた同名舞台劇を、自身の監督・脚本で2018年に映画化。
配給SDPサイト http://www.stardustpictures.co.jp/movie/aiaigasa.html

曲名 カタカナやひらがな、漢字といろいろな表記があります。

石川さゆり  あいあい傘

石川さゆりオフィシャルウエブサイト
http://www.ishikawasayuri.com/discography/single/1976/

テゴマス アイアイ傘

ジャニーズエンターテイメントレコードサイト
https://www.jehp.jp/s/je/discography/JECN-0172

JITTERRIN’JIN 相合傘
Aiko 相合傘

aiko official web site https://www.aiko.com/discography/?id=103

はっぴいえんど 相合傘

細野晴臣公式サイト http://hosonoharuomi.jp/discography/happy-end-happy-end/

相合傘とパーソナルスペース

江戸時代からある「相合傘」という言葉ですが、どうも日本以外の他の国ではないようです。なぜ日本だけに「相合傘」という言葉が生まれたのでしょうか?
その理由を考える中で、もしかしたら人と人との距離感が日本人は他の国の人と比べて特別なのではないかと思われました。そこで人と人の距離感については、パーソナルスペースという考え方でいろいろと研究が進められていますので調べてみました。

パーソナルスペースとは個人の身体からある一定の空間で、他人に侵入されても不快に思わない領域の事を言います。
パーソナルスペースへ侵入された場合、不安や緊張感が高まり心拍数が上がる傾向があるようです。一旦パーソナルスペースを侵害されると、その相手に対して嫌悪感や警戒心をなかなか解けないという状態になってしまいます。

このパーソナルスペースに関して昔から様々な研究がされていますが、最も有名なのが、1966年にアメリカの文化人類学者エドワード・ホールが提唱したプロクセミックス(近接学)理論というもの。彼によると相手との距離感は以下の4つに分けられるそうです。

密接距離0cm~45cm家族、恋人など、ごく親しい人がこの距離にいることは許されるが、それ以外の人がこの距離に近づくと不快感を伴う
固体距離45cm~120cm二人が共に手を伸ばせば相手に届く距離で、友人同士の個人的な会話ではこの程度の距離がとられる
社会距離120cm~350cm身体に触れることは出来ない距離、改まった場や業務上で上司と接するときにとられる距離のこと
公衆距離350cm以上講演会や公式な場での対面のときにとられる距離

また、男女においても異なるため注意が必要です。男性の場合は、前方が広く、後ろが狭い傾向です。そのため、前から向かってくる人に対して警戒しやすいのが特徴といえます。一方、女性の場合は、自身を中心とした円形状にパーソナルスペースが広がっています。

年齢によってもパーソナルスペースは変化します。一般的に年齢が低ければ低いほど、パーソナルスペースが狭いといわれています。赤ちゃんを思い出してみると、警戒心の低さがわかるのではないでしょうか。
パーソナルスペースは12歳ごろから意識し始めて大きくなっていき、40歳ごろがピークだといわれています。

国ごとの違いとして、ある研究で42か国、9000人の被験者に対して個々の国でパーソナルスペースに関する調査をしています。
以下の表で国別のパーソナルスペースをまとめています。

(※)引用元:https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/0022022117698039

日本人に関する調査

https://hitome.bo/column/article/316-hitomebo-countrys-cultural-personal-space.html
「日本大学芸術学部研究所教授の佐藤綾子さんによると、世界的な平均距離は120~350cmとなっていますが、日本人の場合は、100cm前後のようです。
世界平均と比べると20~250cmも狭いパーソナルスペースであることがわかります。」

・日本人のパーソナルスペース
密接距離 男性60cm、女性58cm(プロクセミックス理論:0cm~45cm)
私的距離 男性72cm、女性69cm(同上:45cm~120cm)
社会距離 男性89cm、女性107cm(同上:120cm~350cm)
公共距離 男性108cm、女性118cm(同上:350cm以上)

上記によると世界に比べて特別に広いわけでも狭いわけでもないようです。
他の国と比較して日本人の場合は、密接距離、私的距離、社会距離、公共距離の距離が伸びていく割合が少ない(密接距離では世界に比べて距離が遠いが、社会距離や公共距離は世界に比べて近い)といえます。

パーソナルスペースからみた相合傘が日本特有の文化の理由としては、普段は密接距離や私的距離など比較的親しい間柄でも距離をとりがちですが、相合傘の状況は一気に距離が縮まります。
そのためパーソナルスペースに侵入された感覚となり、非常事態として特別に意識してしまう状況になるのではないでしょうか。

傘の内側は特別な空間?

雨のなか周囲と隔離されたような相合傘の中にいる感覚について日本人特有のものがないか調べてみました。

「傘と雨と日本人」より https://www.mizu.gr.jp/kikanshi/no50/02.html
傘は、雨や日差しを除ける機能や強度を高くするため、材料や細工の進化を遂げました。それが本筋ですが、枝葉の役割としては、神仏が天から降りて鎮まる結界(天蓋)の表現でもあります。祭礼や芸能に、今も和傘がよく使われるのはこのためです。
絵巻物に描かれた「傘」の意匠 : ヒトとモノとの社会的・文化的関係性に関する研究(1)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssdj/56/3/56_KJ00005879013/_article/-char/ja/
(4)祭りに使用される傘には、神を迎えて時間空間を同一化する意匠がうかがえる。(5)往時の人びとの傘の使用には、陽よけ・雨よけの物理的機能に加え、傘によって表象的・結界的な時空間を演出・創出する企図がみられる。

→上記の論文等から、「傘の内側は特別な空間である」、という感覚が昔から日本人にはあるのではないでしょうか。そのため相合傘に対して海外の人にはない特別な意識が生まれたのかもしれません。
その特別に意識してしまう気持ちの発露が様々な表現につながっているのではないでしょうか。

さらに、相合傘の「アイアイ」という音が「愛」や「会」などの音と一緒のため、それらの漢字の意味が無意識に連想され、恋愛的な意味と結びついていった面もあると思われます。

最後に

日本独自の文化である相合傘を積極的にしてみませんか。
家族やパートナー、友達や同僚など身近な人に対して一つの傘の下でいろいろと話しながら歩いてみてはいかがでしょうか。
気になる人がいて、雨の時に傘がなくて困っているシチュエーションに出会ったとき、タイミングよく相合傘ができるよう傘を常に用意しておきましょう。

サイズはあまり大きすぎると距離ができてしまうかもしれませんが、小さすぎると二人とも濡れてしまうので、親骨65~70㎝、直径100~110㎝あたりがいいですね。
最近は夏の日差しも強烈になってきていますので、日傘の相合傘という場面も増えてくるかも知れません。
そんな相合傘を多くの人に楽しんでいただくためにも、素敵な傘をプレゼントしてはいかがでしょうか。

※「【贈り物に迷ったら】傘をプレゼントでいいじゃない?」はこちら。
https://kasazenshu.acase.co.jp/umbrella/umbrellagift/