傘を解析する

傘の手元の舞台裏:竹の素材が描く物語

傘の手元で人気のあるタイプの一つに竹(寒竹、バンブー、ワンギーとも呼ばれます)があります。竹の節がアクセントとなり、オリエンタルな感じが全体のバランスとミックスして高級感を醸し出しています。
バッグのハンドルとしても人気があり、時に傘の手元が品薄になってしまうこともあるくらいです。長く使うと独特の艶が出てさらに雰囲気がアップする竹の手元について、いろいろな角度から紹介したいと思います。

竹の種類

ところで原材料の竹の種類はどのくらいあるのでしょうか?
竹は世界中に広く分布しており、その種類も多様です。竹の種類は、全世界で88属・1162種ほどあるとされています。
竹は主にアジアや中南米の熱帯・亜熱帯地域に多く見られますが、温帯地域やアフリカ、オセアニア、マダガスカルにも少数の種類が存在します。
日本では13属240種の竹が確認されており、その中には日本固有の種類も含まれています。竹はその特徴や用途によってさまざまな分類方法がありますが、一般的には節間の長さや節の形状、茎の断面や色、節毛の有無などで区別されます。

日本に存在する竹の分類と種類

「単軸型」と「連軸型」は、地下茎の伸び方によって竹を分類する方法です。
「単軸型」の竹は、地下茎が一本ずつ伸びて、その先にタケノコが出るという特徴があります。このタイプの竹は、傘やステッキなどの工芸品によく使われます。マダケやモウソウチクなどが「単軸型」の竹の代表です。
(出典:林野庁HP(http://www.rinya.maff.go.jp/j/tokuyou/take/seisitu.html))

「連軸型」の竹類は、地下茎が短くて稈と一体化しているのが特徴です。このような竹類は熱帯性で、熱帯や亜熱帯の地域に多く分布しています。
ホウライチクやホウオウチクなどの代表的な竹類は、この「連軸型」に属しています。マチクやシチク、ダイサンチクも同じタイプです。
(出典:BambooHP(http://www.dkakd107.sakura.ne.jp/D12.html))

世界の竹の分布

竹は、赤道を中心に北緯・南緯の40度付近まで世界中に広がっていますが、温暖で湿気の多い気候に適した植物です。ササ類はサハリンまで分布していますが、タケ類は日本が北限です。
砂漠や乾燥地帯など、雨が極端に少ない場所では生育しません。自然に分布する竹林は、年間降水量が1,000mm以上の地域に限られます。
世界の竹林の総面積は正確には分かりませんが、アジアでは中国が340万ha、タイが81万ha、ベトナムが148万ha、ミャンマーが220万ha、インドが957万haと推定されています。
アジアの竹林は、世界の竹林の8割ほどを占めていると考えられています。

ヨーロッパ極めて少ない(渡来種がわずかに生育)
アフリカ多い
アジア北部(ロシア方面)少ない
東部(日本、中国、台湾、韓国など)多い
西部(トルコ、イラン、アラビア方面)少ない
南部(インド、東南アジア方面)多い
北アメリカ少ない(渡来種がわずかに生育)
南アメリカやや多い
オセアニアオーストラリア少ない(渡来種がわずかに生育)
ニュージーランド少ない

出典:上田弘一郎(1979)『竹と日本人』NHK出版 より作成

日本の竹林

平成29年3月の林野庁の資料によると竹林面積は1,667平方キロで森林面積全体の0.7%を占めます。

(単位:平方キロ)

日本国土面積国内森林面積国内竹林面積国内民有竹林面積
面積378,000250,4821,6671,665
日本国土に占める割合100%66%0.4%0.4%
国内森林面積に占める割合100%0.7%0.7%

また、県ごとの竹林面積は、第1位 鹿児島県17,927ヘクタール、第2位 大分県14,042ヘクタール、第3位 福岡県13,619へクタール、第4位 山口県12,001ヘクタール、第5位 島根県11,157ヘクタール、第6位 熊本県10,312ヘクタール、第7位 宮崎県6,031ヘクタール、第8位 千葉県5,915ヘクタール、第9位 京都府5,473ヘクタール、第10位 岡山県5,435ヘクタール、と続きます。

特用林産物の生産量および生産額

単位H12年H17年H22年H27年H28年H29年H30年R1年R2年R3年R4年
竹材千束2,0081,2909631,2351,2721,1971,1431,0711,030916828
百万円1,9941,1817907807722,6371,8951,8361,7621,400

 

竹材生産量の上位県 (単位:千束)

令和1年令和2年令和3年令和4年
鹿児島638.2鹿児島611.9鹿児島616.6鹿児島533.9
熊本263.7熊本240.1熊本131.5熊本138.4
大分52.0大分44.0大分32.7大分28.2
高知19.3京都19.4岡山23.0岡山28.1
福岡17.7高知17.7京都21.9高知25.8
全国計1070.61030.1916.1827.9

林野庁 特用林産物生産統計調査より作成

昭和30年代以降、石油やガスなどの新しい燃料や化学肥料の普及により、薪炭用材としての需要が減少した里山林は、手入れがされなくなり、藪化や荒廃が進んでいます。竹林も同様に、竹かごや造園建築資材などの竹製品やたけのこの需要が減り、竹林の管理が行われなくなりました。
昭和40年代には、マダケの一斉開花による枯死現象が起こり、竹材の輸入量が増えました。昭和50年代には、たけのこの輸入量も増えました。これらの要因により、竹林は放置されるようになり、周辺森林にも影響を及ぼしています。

平成24年以降は、太陽光発電パネルの設置を目的とした竹林造成が盛んに行われましたが、近年は買取価格の低下や設置規制の強化により、竹林造成の数は減ってきています。

近年の竹の利用

竹は日本の伝統的な資源であり、様々な用途に利用されてきました。丸竹や割竹は建築や工芸に、竹炭や竹酢液は環境や健康に、竹の成分は化粧品や医薬品に活かされています。最近では、竹をパルプやバイオマス燃料として利用する動きもあります。さらに、竹を家畜飼料や日用品の原料とすることで、新たな需要を創出し、竹林の管理にも貢献しています。タケノコもメンマとして加工・販売され、食文化にも広がっています。竹はマテリアルとしての可能性が広く、研究・開発が進められている素材です。

傘の手元としての竹根の加工

1990年代までは傘の手元として利用される寒竹製のハンドルについて国内で製造していましたが、その後国内では入手が難しくなってきたため中国などの外国での製造に切り替えていった経緯があります。そのため現在では国内で製造する業者はほとんどいなくなってしまいました。

中国は世界でも竹資源の種類が豊富で、竹製品生産の歴史が古く、竹文化が色濃く根付いている国と言えます。産業コンサルティングを手掛ける中商産業研究院の報告書「2021年中国竹加工産業チェーン川上・川中・川下市場分析」によると、国内の竹資源は77.6%が福建、江西、四川、湖南、浙江、広東の6省に分布しています。
中国の竹林面積は701万ヘクタールに上り、世界全体の5分の1を占めています。中国竹産業の20年の総生産額は3200億元に迫り、貿易額は22億ドル(1ドル=約135円)超と世界の約6割を占めました。

中国の浙江省湖州市にある安吉県

中国の浙江省湖州市にある安吉県には、広大な竹林が広がっています。この竹林は、浙江竹郷国家森林公園と呼ばれ、亜熱帯の常緑広葉樹林帯に属しています。竹林の面積は約1.8万ヘクタールで、杭州から60キロ、上海から230キロの距離にあります。竹林は緑豊かで、空気は清涼で、四季折々の景色を楽しむことができます。竹林には多種多様な竹の品種があり、竹製品の製造や販売も盛んです。安吉県は、画家や篆刻家の呉昌碩や武将の朱治など、歴史的に有名な人物の出身地でもあります。また、ここは第73回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した『グリーン・デスティニー』の撮影地でもあります。映画の中でも竹林で戦うシーンがありました。安吉県の竹林は、中国の自然と文化の魅力を感じることができる場所です。

竹は、中国の伝統的な素材として、建築や家具、工芸品などに利用されてきました。近年では、竹はプラスチックの代替として注目されています。竹は、成長が早く、二酸化炭素の吸収量が多く、生分解性が高いという特徴を持ちます。中国では、竹加工産業が急成長しており、2025年には7千億元(約13兆円)、35年には1兆元以上(約19兆円)の市場規模になると予測されています。

安吉県では、竹加工産業を発展させるために、さまざまな取り組みが行われています。例えば、竹製品の生産や販売を行う企業や団体が集まる「安吉竹海産業パーク」が設立されました。また、竹林の維持管理や竹材のリサイクルを行う「竹コミュニティ事業」が始まりました。さらに、竹工芸の伝統を守りながら、新しいデザインや技術を取り入れる「安吉国際竹工芸展」が開催されました。

このように、安吉県の広大な竹林は、生態系や文化だけでなく、経済や社会にも大きな影響を与えています。

竹の加工方法

過熱して曲げる

竹は、熱を加えることで柔らかくなり、曲げることができる素材です。竹の曲げ方には、火や熱湯を使って直接加熱する方法や、金属の帯を添えて外側が伸びないようにする方法などがあります。竹の種類や太さ、曲げたい形によっても適した方法が異なります。
竹の加工には、曲げる前に矯正する「ためる」作業や、曲げた後に油分を拭き取る作業なども必要です。

傘製品となった後の注意点(手入れ、あくび)

竹の手元は湿気や高温が苦手。手元の形に曲げた竹が真っ直ぐに戻ってしまう可能性があります。特に夏場の車内に放置することは高温高湿になるので大変なことになります。

まとめ

傘の手元として人気がある竹(寒竹、バンブー、ワンギー)について、竹の状況について世界や日本の現状を紹介しました。また、傘に使われる竹がどこでつくられているか、どのように作られているかについても紹介しました。
竹は成長が林植物といわれていますが根が手元として使えるように育つまで数年かかります。自然由来の物ですので環境に対する負荷は少ないはずです。大切に使い続けることでうまく循環し続けることができるのではないでしょうか。

参考文献

林野庁 森林・林業白書
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/index.html
林野庁 竹の利活用推進に向けて
https://www.rinya.maff.go.jp/j/tokuyou/take-riyou/attach/pdf/index-3.pdf
竹の有効性・嶋田暁文 可能性・利用推進に係る課題~放置竹林問題に関心のある人たちのための竹入門~
https://www.jstage.jst.go.jp/article/chihoujichifukuoka/68/0/68_5/_pdf/-char/ja
Trip.com安吉竹郷国家森林公園
https://jp.trip.com/travel-guide/attraction/anji/anji-zhuxiang-national-forest-park-24648540/
36krJapan 中国竹産業、35年1兆元市場に プラスチック代替で急成長
https://36kr.jp/213593/
National Forestry and Grassland Administration 中国浙江省安吉県で「プラスチックを竹に置き換える」イノベーションカンファレンスと竹製品の普及活動を開催
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000127855.html
株式会社竹定商店 放置竹林再生事業「竹コミュニティ事業」始まる
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000056397.html
農林水産省 竹を知りつくした職人に学ぶ!竹の栽培と匠の技
https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2103/spe1_03.html