傘を取り巻く環境

傘とジェンダーの関係性について考える

ジェンダー(性)に関する考え方が近年いろいろと変わってきています。
アップデートせずに数年前の考えと同じように話すと、周りの人が違和感を感じるかもしれません。
そこで今回は、キーワードをもとにどのようなことが論点となっているのか、そして現在のジェンダー的観点から傘を見た場合について紹介したいと思います。

ジェンダーに関するキーワード

キーワード1 ユニセックス、モノセックス、ノンセックス

従来からファッションではユニセックス、モノセックス、ノンセックスなどの言葉が使われていました。これらは男女区別ないという意味、男女どちらでも着ることができる衣服やスタイルのことを表しています。昨今ワイドシルエットの服が流行っていることもありますが、次に出てくるような社会的な思考も反映しているといえます。

キーワード2 ジェンダーレス&ジェンダーフリー

「ジェンダーレス」が、社会的・文化的な男女差をなくして行くことを指すのに対し、「ジェンダーフリー」は社会的・文化的な男女差が生み出す差別・格差をなくして行くことを指します。
例としては、制服やランドセルについて男女別の義務を失くし、自由に選ぶことができるようにすることなどが当てはまります。

キーワード3 ジェンダーバイアス

社会的・文化的性差別、または性的偏見という意味です。男女の役割について差別や偏見を生み出す無意識の固定観念といえます。「男だから…」、「女らしく…」につながる言葉を無自覚で使ってしまうことは、個人や集団を傷付け人権を侵害する差別となります。

キーワード4 LGBTQ+

Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性自認が出生時に割り当てられた性別とは異なる人)、QueerやQuestioning(クイアやクエスチョニング)、Plus(プラス、その他包括的に)の頭文字をとった言葉です。性的マイノリティ(性的少数者)を表す総称のひとつとして使われることがあります。
性に関する多様性を認め、一人一人の人権が尊重される世の中に変化しています。企業のLGBTQ+支援・配慮なども進んでいます。

キーワード5 ジェンダーギャップ指数

世界各国でジェンダーレスがどのくらい進んでいるか把握する指標の1つに「ジェンダーギャップ指数(男女平等格差指数)」があります。
これは、スイスの非営利財団「世界経済フォーラム」が発表しているもので、2022年度は146ヵ国のデータが公開されています。日本は116位。経済分野と政治分野が遅れています。

キーワード6 SDGs5「ジェンダー平等を実現しよう」

「男女平等を実現し、すべての女性と女の子の能力を伸ばし可能性を広げること」を掲げています。

キーワード7 女性活躍推進法

2015年8月、女性活躍推進法が国会で成立し、国や地方公共団体、民間企業は男女における就労観の変化と実情に対応するよう義務付けられました。

キーワード8 ダイバーシティ&インクルージョン

2012年頃から経済産業省も推しているダイバーシティ&インクルージョン(多様性&受容性)とは、性別や年齢、国籍や障害の有無から働き方など多様な人材を受け入れ、その能力を発揮させる考え方をいいます。

海外では、イギリスの広告基準評議会(ASA)が2017年に「性別にもとづくステレオタイプを助長する表現の広告を禁止する」と発表しました。

傘との関連性

洋傘を買おうとしたとき、お店では男性用(紳士・メンズ)と女性用(婦人・レディース)で売り場が分かれていたり、ネットでも同様に表記されていることがほとんどかと思います。
その主な目的は、自分が欲しいと思っている商品に早くたどり着くための分類といえます。
しかしながら、便利さの陰でマーケティングでいうところのセレンディピティ(素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見すること。また、何かを探しているときに、探しているものとは別の価値があるものを偶然見つけること。ウィキペディアより)を体験する機会が少なくなっているといえるかもしれません。
洋傘において男女別表記とはどのようなことを意味しているかを見ていきながら、今後の方向性について考えてみたいと思います。

男性(紳士・メンズ)用、女性(婦人・レディース)用の意図は
傘の、男性用、女性用は、原則的には、サイズや重さの違いを指しています。
男性用ほど、色柄少なく無難な色柄が多く丈夫で重たい傾向があり、女性用ほど色柄が多く個性多様で軽い傾向があります。

具体的には、生地の柄について女性用傘は、華やかな花柄やカラフルな色を使っているのが多くなります。男性用傘は、オーソドックスなチェック・格子・裾ボーダーなどで色も黒・紺・緑・茶系が多くなります。

親骨の長さ(いわゆる傘の大きさ)について、女性用長傘は55cm~60cmのものが多いです。男性用長傘は65cm~75cmのものが多いです。女性用折りたたみ・ミニ傘は50cm~58cmのものが多いです。男性用折りたたみ・ミニ傘は55cm~65cmのものが多いです。

全長の長さは、昔と比べて男女共に短くなっている傾向で85cm~95cm位です。昔に比べてより持ちやすさを狙っていると考えられます。

傘の太さ・軽さについては、比較的細くて軽いのが女性用、やや太くて重いのが男性用と思われますが、それは元の大きさに原因があるからだと思います。基本的にこれも素材の開発等により昔に比べてかなり軽量化の傾向にあります。

手元(ハンドル)の大きさ=女性用の手元は細身・小ぶりが多く、男性用の手元は太く・やや大きいものが多いです。その原因も傘自体が女性用より大きいため全体のバランスで太く・大きくなっていると考えられます。太い方がグリップがしっかりし持ちやすいのですがその分素材によっては重かったり、かさばる可能性があります。

生地について、女性用で以前は光沢があるサテン地というのをよく使われていましたが、現在ではかなり少なくなってきており、男女ともに光沢がないマット調のものが多くを占めています。

サイズ表記について

現在、傘のサイズで男女別をうたっていることが多いですが、単純に身長や体格別で表記すればいいのではないでしょうか。
性別を記載することなく、重さや長さなどのサイズ、無地やストライプなど生地の柄のタイプ、使用されている素材、雨傘や日傘・晴雨兼用傘・折りたたみ傘などの用途、などで分類するとより幅広い候補の中から選ぶことができるようになると思います。

例えば傘の大きさでいうと、
身長にあった傘を選ぶ目安として以下を挙げることができます。

身長親骨のサイズ
身長90cm以下38cm
身長110cm以下47cm
身長120cm以下50cm
身長140cm以下55cm
身長160cm以下60cm
身長170cm以下65cm
身長180cm以下70cm
身長180cm以上75cm

一方で「選択のオーバーロード現象」と呼ばれるマーケティング用語75㎝ます。
これは、選択肢がありすぎて選ぶことの負担が大きくなったため満足度の低下や買うことをやめてしまうということをいいます。
どのような分類の仕方が効率的に欲しいものを見つけることができるのか、一方で新たな商品との出会いを作るにはどうするのが適切か?など売り場では検討の余地はいろいろとありそうです。

最後に

そもそも紀元前のギリシャでは女性の流行品として日傘があり、その後もずっとヨーロッパでは女性の持ち物でした。
18世紀後半になってイギリスで男性が雨傘として使用するようになり、徐々に広まっていきました。日本でも傘は平安時代に中国から伝わってしばらくは身分の高い人が日除けや魔除けに使っていましたが、江戸時代に入って男女ともに和傘を一般に使用するようになりました。

それだけ古くから性別に関係なく利用されている傘ですので、将来的にはあまり性別をはじめとする固定概念にとらわれずに、ジェンダーニュートラルに自由に使いたい傘を使うのがこれからの時代では当たり前になるのではないでしょうか。
さらに、気候変動に対する意識の高まりは、性別に関係なく、より多くの消費者にアピールする、より持続可能で環境に優しい傘のオプションにつながる可能性があるように思います。