傘雑話集

傘の奏でる音

傘の奏でる音

「良い傘は良い音がする」
業界の諸先輩方から言われ続けた傘に関する名言の一つです。

ピンと張りつめた太鼓の革の上にビーズが落ちるようなきれいな「パラパラ」とした音。
長く洋傘携わった方ほど、この音が出る傘が良い傘だとおっしゃっていました。
使い捨て傘がはびこる昨今、このように良い音がする傘はまれであり、それゆえに貴重な存在でもあります。

もっともこのような音は長傘にしか出せないものです。折りたたみ傘やミニ傘は、その構造上生地をピンと張りつめることが難しく、傘の展開時に一部緩んだ場所が出てきやすいのです。
また、長傘であっても、量産品ではすべての傘生地がピンと張った状態を作り出すのは難しいです。

某有名老舗傘製造の傘ですと確かにそのような音のする傘は多いです。それは一本一本手作りで骨に合わせて手縫いで縫製をしているからであり、残念ながら数打ちの傘ではそこまでの精度で傘生地を骨に馴染ませることはできません。もちろん、量産品でも確率で良い出来の傘に出会う事はありますが、それは幸運なケースだと思います。また、傘売り場で傘を開いて雨粒を新品の傘に当てるわけにもいきませんので、自分にとっての良い音が出るかは運次第というわけです。

ちなみに、骨が鉄と強化プラスチックの場合、鉄骨の方が良い音が出る可能性が高いです。
というのも強化プラスチック骨は柔軟で折れにくい性質があり、鉄骨は硬度が高いために折れにくいという違いがあります。やわらかい骨に生地を張るよりも硬い骨に生地を張る方がテンションを高く保ちやすいために、鉄骨の方が太鼓に近い状態になるのです。
こだわりの傘を作っている傘屋さんは鉄骨を使用しているところが多いということは、あまり知られていない雑学知識です。