傘を解析する

時代を超えるスタイル:英国紳士と傘の絆

英国紳士と傘 - この2つのアイテムは、ずっと前から人々のイメージの中で結び付けられてきました。
クールに細く巻かれた傘を手にした、パリッとした身なりの良い英国人というイメージは、山高帽やステッキとともに英国文化の象徴的な一部分となっており、英国独自の歴史と伝統を物語っているといえます。
歴史上、英国紳士にとって傘はどのようなものだったのか、気になったので調べてみました。

なぜ傘を持つようになったの?

英国紳士と傘の関係は、何世紀にもわたってさかのぼります。
イギリスでは、18世紀頃、まず雨傘が雨よけとして使われるようになったのですが、当初、雨傘は馬車を持っていない身分の者が持つものとして見られ、上流階級には受け入れられませんでした。

やがて18世紀から19世紀にかけて、傘は裕福な人だけが手に入れることができる高級品と見なされていきました。それらは手作業で作られ、複雑なデザインと高価な素材で装飾されていました。
その後19世紀初頭には雨傘は、実用的な雨よけとして男女・階級に関係なく受け入れられるようになっていたようです。


紳士が傘を持つスタイルは、ヴィクトリア朝(1837年~1901年 この頃がイギリス史において産業革命による経済の発展が成熟に達したイギリス帝国の絶頂期)の新興紳士たちの出現とともに始まった流行です。
紳士の様式のオリジンであるダンディズムを創り出したヴィクトリア朝以前のブルジョア階級の貴族の必需品は馬車であり、ヴィクトリア朝以前の紳士が手にしていたのは傘ではなくステッキでした。
先ほども述べましたが、当時傘を持って歩くということは「雨の日に外を歩く必要がある人」ということになり、馬車を持っていない、もしくは乗らないということを表していたため、守旧的な考えの人からは良く思われず嘲笑の対象となってしまったようです。

ブルジョア革命(フランス革命を代表とするそれまでの封建制度から市民社会への移行)後に現れた都市貴族からなるダンディな紳士は、教養があり、話し方がよく、身なりがよい人物であり、ある程度の優雅さと洗練さを確立していました。
しかし商業が発達して中流階級の人々にも資産家が出現し、都市貴族の紳士的な生活様式を真似る新興紳士が多くなると、傘を持つ人も増えてきました。
彼らは馬車を所有していませんでしたが、合理的精神によりステッキに見えるような細身に巻いた傘を持つことでダンディを気取りました。
それからは傘が英国紳士に必須のアクセサリーになっていきました。傘はこのイメージの不可欠な部分となり、時間の経過とともにセンスの良さと洗練のしるしとして見られるようになりました。
中上流階級の裕福な人々の間で傘が人気を博したことで、傘は英国紳士や社会的地位の概念と関連付けられるようになりました。

ステッキの衰退

20世紀の英国紳士は、肖像画に描かれる際によく細く巻き上げた傘を持っています。
その前の時代では、ステッキを持っていました。さらに昔の時代では、馬用の鞭が必需品でした。
この長い棒状の小道具は、紳士の地位を示す象徴であり、手を労働で煩わせる必要がないことを表していました。
それよりさらに古い時代には、紳士は剣(ラピア)を腰に下げていました。
これらの歴史から考えると、鞭からステッキ、そして傘へと進化した棒状の小道具は、身を守るための武器としての意味も持っていた可能性があります。
ステッキは19世紀から20世紀にかけて、イギリス、フランス、アメリカなどで紳士の必需品でした。
しかし、自動車の普及や新聞や荷物を小脇に抱える習慣ができたため、20世紀後半にはステッキを使う人は減っていったそうです。

また、武器といえば、19世紀から第一次世界大戦のころまでは傘が戦場によく登場していました。
塹壕で雨を防いだり、日射病を防いだり火薬を濡らさないようにすることなどに使われました。
戦場でよく使われたことから派生して、英国の衛兵が非番のときに必ず山高帽ときれいにたたんだ傘を持つという伝説が伝わっていきました。

現在の英国紳士と傘の関係

今日、英国紳士と傘のセットになったイメージは、世界中で認められる文化的アイコンとなっています。世界各国に伝わり紳士の見本となるとともに、英国内でも紳士道がさらに極められていきます。
英国ならではの歴史と伝統を語り、現代風にアップデイトされたエレガンス、洗練、センスの良さの象徴であり続けています。
英国では傘を細く巻くことを仕事とする人がいます。お金を払ってでも閉じたときの傘の形を美しく保つことが、英国紳士にとって意義があることとなっています。
傘として開いて雨を避ける以上に、細巻きのステッキのように見える傘を持つことが大切なのかもしれません。

まとめ

結論として、英国紳士と傘の関係は英国文化の200年弱続いている良いイメージといえます。
傘は富と地位の象徴となり、身なりがよく、ユーモアがあり話し上手な紳士のイメージに欠かせないものとなっています。
今日でも、この連想は根強く、傘をさした英国紳士のイメージは、エレガンスと洗練の象徴として世界中で認識され続けています。
英国紳士の装いと振る舞いに興味がでてきましたら、まずはビニール傘をやめて細身のすっきりした長傘を用意してはいかがでしょうか。

参考文献
世界服飾大図鑑 コンパクト版 深井晃子 川出書房新社
アクセサリーの歴史事典 K.M.レスター&B.V.オーク 八坂書房
サライ 22巻7号 小学館
アンブレラ 傘の文化史 T.S.クロフォード 八坂書房
傘 和傘・パラソル・アンブレラ INAX出版