傘と言うものはもともと雨が降ってきたら売れるものという位置づけでした。
そして、雨はいつ降るのか分かりませんから、傘をあちこちの商店の在庫置き場に置いておいてもらい、雨が降るとそれらが店頭に展示される。このような売り方が傘の一般的な取り扱われ方でした。今でもそのような扱われ方をしているケースは多くみられます。
もちろん、梅雨を控えた時期には1か月ぐらいの間、常設展示される場合もあったのですが、基本的には雨が降ったら店頭に出すというのが傘の一般的な売られ方でした。当然、雨が降った後は傘の在庫が減るので、そこに現れるのが傘の補充屋さんです。イメージとしては自動販売機の補充を考えてもらえると分かりやすいでしょうか。売れた分だけ補充をしてその分の傘を売って、次の場所に移動するというルートセールスという形が一般的でした。
ルートセールスというと大変な営業スタイルという気がしますが、実際には傘は雨が降ると売れたので、それほどきつい営業ではなかったようです。もちろん、たくさんの売り上げを求める人は軽トラックに傘を積んでジプシーのように行商し続けるわけですから、そのような人は多額の報酬と引き換えにきつい思いをしたとは思われます。
そのような中で、各地の地方都市を中心に傘の専門店というものが生まれ始めます。全国に数百件あったと言われる傘の専門店。地方都市の駅前付近には一時しのぎの傘ではなく、本当に良い傘を売る店舗が多くありました。現在も数十店舗は残っているのですが、時代の波には逆らえなかったのか、数はかなり減ってしまっています。
また2000年以前の大店法によって大規模な小売店が各地にできるようになり、いわゆるGMS(総合スーパー)が活況を呈するようになると、傘はその中に売られる商品として取り扱われるようになりました。傘は量販店で買う物という流れがこのころからでき始めるわけですが、同時期に隆盛を極めたのがコンビニエンスストアで、こちらでは使い捨て傘の取り扱いというものが始まりであり、これらが現在日本で使用されている傘の90%を占めているのです。
なお、このコンビニでの使い捨て傘が、ルートセールスから始まった「雨が降ったら傘が売れる」流れの最終形態となっています。ちなみに、ルートセールス自体はエキナカの店舗に売られている傘などにその名残を見ることはできますが、基本的には大手流通商社がそれらを扱うようになっています。