傘と文化との関係

傘と帽子の関係、雨や日よけで使われる道具たち

傘と帽子は同じような目的を持っています。日差しが強い時に傘をさしたり、帽子を被ったりして直射日光から頭部を避けることに使われます。
また、少量の雨であれば帽子で頭部を濡れないようにすることもあると思います。それぞれ別に使用することもあれば一緒に使うこともあるアイテムです。
そのように似た部分のある傘と帽子の互いに関連する要素について紹介したいと思います。

その前に、「雨よけ道具」のあれこれ

雨に濡れないための服や道具として、傘、笠、蓑、合羽、レインコートなどがあります。
これらの名前は異なりますが、各々が特有の役割を果たすものになります。

傘(かさ):頭上に掲げて体を覆うモノで、雨から身を守るために使います。
笠(かさ):頭にかぶる帽子のようなもので、雨を防ぎます。
蓑(みの):撥水性のある植物(稲ワラ、茅、藤、シュロなど)で作られた衣類で、雨や雪、寒風から身を守るための作業着や旅装束として使用されました。
合羽(カッパ):16世紀にキリスト教の宣教師が着ていたマントから派生した上着で、雨具として使用されます。
レインコート:1823年にゴムを使った防水布が発明され、ロンドンで流行したもので、雨から身を守るために使います。

また、長靴も雨天対策の一部として考えられています。19世紀にウェリントン公爵が足の保護のために作成した長い乗馬靴に由来しています。

今回は、特に頭の上から使用する傘、笠、帽子について調べてみました。

笠(かさ) 頭にかぶる雨よけの道具

笠とは、被り物の一種で、一般に低円錐形につくられ、これに紐などをつけてかぶるものです。笠の歴史は古く、中国最古の詩集『詩経』に初見され、それ以後今日まで広く東南アジア各地で使用されているそうです。
日本でも早く『日本書紀』に見られ、埴輪にも多く造形されているとのこと。

笠の材料には、菅(スゲ)、竹、藺草(イグサ)などが用いられています。作り方については、真竹で笠の基本形となる骨組みと縁を作り、円錐状の竹の骨組みの頂点を油紙で覆います。笠に適した厚みのある菅を骨の間に中心から横に、渦巻状に掛けていきます。次は縦へと掛けていき、端を骨組みの外側の縁に巻きつけます。続いて、竹の骨組みに編んだ菅を長い針と糸で、表側の縁から笠の頂点に向かって、白木綿糸で渦を描くように縫い付けていきます。
初め笠はおもに雨具として用いられましたが、のち外出の際に顔面を隠すために使われ、ついで広く屋外の労働に、雨除(よ)け・日除けとして男女ともに用いられるようになりました。ただし明治以後は、種々の帽子が普及したため、あまり用いられなくなりました。

女性が被る笠の例

市女笠(いちめがさ)

巾子(こじ)と呼ばれる高い頂部を持つ笠は、もともと物売りの女性たちが使用したことからこの名前がつけられました。しかし、平安中期以降、上流の女性たちが外出時にも使うようになり、直接頭にかぶるか、被衣(かずき)上に被るなど、上流階級の婦人たちの装いとして一般的になりました。
この笠は、周囲に薄い布を垂らし、それを虫を避けるための「垂衣(たれぎぬ)」として使用することもありました。もとスゲ(菅)で編まれていましたが、江戸時代に入ると竹やヒノキで編み、黒い漆を塗るようになりました。

鳥追傘(とりおいがさ)

元々は田畑に害を与える鳥を追い払う東日本の正月行事「鳥追」で、鳥を追い払う人が被っていた笠です。二つ折りの折編笠のオリジナルです。
江戸時代に入ると、新年の門付けをする女性芸人である「鳥追女」という風俗が興り、彼女たちは三味線を弾きながら笠をかぶって活動しました。この風俗が広まる中で、笠は女性芸人の被り物として確立されていきました。この伝統は後に、現代においても阿波踊りの踊り子などが笠をかぶるイメージとして引き継がれています。

笠が日本で使われるようになった経緯については、江戸時代に幕府によって服装が規定され、虚無僧が笠をかぶるようになったことが一つの理由とされています。また、浪人笠は男性が人目を避けるために主に利用したと言われています。

(関連)傘と同じように雨よけとして使われていたもので「蓑」があります。

蓑(みの)は、伝統的な雨具の一種で、主に稲藁や他の植物の素材を編んで作られます。この雨具は、雨から身体を守るために衣服の上からまとう外衣として使用されます。日本では、様々な植物素材が使われており、地域によって材料や形状が異なり、海岸部では海藻も蓑の材料として採用されました。
当時イエズス会の宣教師たちは、蓑を日本の雨合羽(あまがっぱ)、すなわち雨の日に使う外套と理解していたようです。実際、昔の農村では傘をさすことがほとんどなく、雨の日には蓑と笠を使うことが一般的でした。しかし、蓑は雨の日だけでなく、雪や寒さから身を守ったり、日差しを遮ったりするためにも利用されました。

傘とセット(欠かせないもの) シルクハットと傘

傘とシルクハットの関係は、19世紀のイギリス社会において特に深いものがあります。

イギリスでは、シルクハットは上流階級や社交界で一般的な男性のファッションアイテムでしたが、傘との関係は次のようになります:
・シルクハットは、もともとはビーバーの毛皮でつくられたビーバーハイハットと呼ばれる帽子でした。しかし、1830年頃にビーバーが乱獲されてほとんど絶滅し、代替素材が必要になりました。シルクハットは、最初はベルベットの一種で作られ、ビーバーの代用として使用されました。

・シルクハットをかぶった紳士(ジェントルマン)は、19世紀のイギリス社会において、上流階級の象徴とされました。このようなジェントルマンは、外出時には傘を持つことが一般的でした。傘は、雨や日差しからシルクハットを守るために必要なアクセサリーとして機能しました。

・シルクハットは高級でデリケートな素材で作られており、雨に濡れるとすぐにダメージを受ける可能性がありました。そのため、ジェントルマンたちは傘を使ってシルクハットを保護し、状態を維持することが重要でした。

・19世紀の上流社会では、シルクハットをかぶった際には儀礼やエチケットが厳格に守られました。傘を使ってシルクハットを保護することは、社交界での正しい行動として認識されていました。

・シルクハットと傘は、上流階級の男性のファッションスタイルに欠かせない要素であり、装いの一部として認識されていました。これらのアイテムは、ジェントルマンの風格と品位を示す重要なシンボルでした。

イギリスの19世紀における傘とシルクハットの関係は、社会的な階層や風習、ファッションに影響を与えました。シルクハットは紳士のステータスを象徴し、傘はそのステータスを守るための必需品として扱われました。このようなファッションの風習や社会的な慣習は、当時のイギリス社会の特徴の一部でした。

日本における傘とシルクハットの関係

日本の明治時代(1868年~1912年)において、傘とシルクハットの関係は存在しましたが、それは特定の社会階級や文化的背景に関連したものであり、一般的な現象ではありませんでした。
以下は明治時代における傘とシルクハットの関係についての概論です。

・明治時代になると、日本は西洋の文化やファッションに大きな影響を受けました。この時期には、日本社会が急速に近代化し、西洋の服飾やライフスタイルが導入されました。

・明治時代になると、西洋風の服装が広まり、特に上流階級や政府高官、外交官などがシルクハットを着用することがありました。シルクハットは西洋の正装として認識され、特別な公式の場面や外交的なイベントで見られました。しかし、一般の庶民にはあまり普及していなかったとされています。

・傘は明治時代においても日本の一般的な雨具として使用されました。伝統的な和傘や洋傘が広く利用され、日本の気候や季節に合わせたデザインが特徴でした。一般庶民から上流階級まで、傘は広く普及していたため、シルクハットと比較して一般的でした。

・シルクハットは上流階級や外交官の間で一部使用されましたが、一般庶民の間ではあまり一般的ではなかったため、傘とシルクハットの関係は社会的背景によって異なりました。傘は庶民から上流階級まで幅広く使用され、傘を持ち歩くことは一般的でしたが、シルクハットは特定の階級や場面に限定された存在でした。

傘と帽子の合体形 アンブレラハット(傘帽子)

「アンブレラハット」という言葉は、普通の傘と帽子を組み合わせたユニークな雨具のことを指します。このアイテムは、雨の日に頭部を保護し、同時に傘のように雨を避けることができる、実用的で楽しいデザインの雨具です。釣りやゴルフ、ガーデニングなどのレジャー用途にも用いられます。ただし、歩行時には骨の先端(露先)が他人の目を突きかねないというリスクが指摘されています。

アンブレラハットの一般的な特徴は以下の通りです

・アンブレラハットは、帽子等の頭にかぶせて固定するモノの上部に傘のような防水素材で覆われており、頭部を保護しながら雨から守る役割を果たします。これにより、傘を持つ必要がなく、手を自由に使うことができます。

・多くのアンブレラハットは、ボタンを押すかプッシュするだけで簡単に開閉できるものが多く、使い勝手が良いです。

・アンブレラハットは、さまざまなデザインや色で販売されており、ファッションアクセサリーとしても楽しむことができます。

・アンブレラハットは、通勤時や釣り、キャンプ、ハイキングなどのアウトドア活動に便利で、雨の日に活用されます。

アンブレラハットに関する記事で、東京オリンピック時に注目されたその後についてです。
東京新聞「かぶる傘」は今どこに? 小池知事「ソリューション」とPRした五輪の暑さ対策グッズだが…
https://www.tokyo-np.co.jp/article/119411

まとめ

傘と同じように頭上で雨を防ぐ道具である、笠と帽子について歴史的な背景や概要、傘との関係などについてまとめてみました。傘と帽子は、両方とも日除けとしての役割を果たすことから、その関連性が始まりました。古代の文化では、日焼けを避けるために帽子や傘を使用しました。帽子は頭部を、傘は身体全体を日差しから守る役割を果たしました。

笠と帽子はいずれもかなり古くからあるもので、傘の代わりに使われていたものや傘とセットで使われたものなど、内容はさまざまでした。ただしシルクハットは水(雨)に弱いということで、雨を防ぐための道具とは言えないかもしれません。歴史的に、帽子と傘は装飾品としても使用され、社会的なステータスや身分を示すためにも利用されました。特にヨーロッパの中世やルネサンス期には、豪華な帽子や傘が高貴な身分や富を象徴する要素とされました。

また、現在使用されている傘と帽子をミックスさせたものであるアンブレラハットについても紹介しました。釣りや畑仕事など雨のなかで両手を使用する場合には適したものです。なかなか街中で見かけることはありませんが、古来の笠に通じるものといえるはずです。笠は現代でも踊りをするときに身に着けるなど脈々と生き続けています。ぜひ機会がありましたら、傘や帽子だけでなく、笠やシルクハット、蓑なども試してみてください。どれが自分に似合っているか調べてみませんか?