傘を解析する

高級傘についている。自然物ハンドル(手元、柄)の種類は?

高級な傘に多く取り付けられているのが竹や木の素材でできたハンドル(手元、柄)です。
これらは自然にあるものを使用しているため、木目や節など同じものは世界に1つしかありません。
このような自分だけの一品となる自然素材のハンドルの素材はいろいろな種類があります。
主な素材を紹介しますので、自分好みのハンドルを見つけて長く愛用してみてはいかがでしょうか。

寒竹(カンチク)

竹(孟宗竹)の地中部にある地下茎を加工したものです。
冬は生育が止まり、硬い状態でハンドルに最も適していますので、寒期に採取作業をします。
それゆえ「寒竹(かんちく)」と呼ばれます。昔から傘やステッキなどの手元に多く使用されてきました。太さや節の数などで個体差が大きい素材です。より硬く、節の数が多いほど高級品となりますが、近年では材料の入手が一層難しくなってきています。
一番の特徴は節が形成するアクセントで、これによってグリップが安定しやすくなります。
一方、個体ごとに節のコンディションの差があるので、手に当たるところの節が尖っている場合に持ちづらいことがあります。
太さは割りと選べる素材ですが、湿度に弱く、購入後にハンドルの形状が変わってしまう可能性もあります。

ジネストラ

マメ科低木のイタリア語名で、英名はブルームウッドと呼び、共に『箒(ほうき)』を意味する名前です。
古来ヨーロッパでは、魔女がこの木で作った箒に跨り、空を飛んだという伝説があります。
ジネストラで作った手元は、なんともいえない不思議な魅力があります。

楓(カエデ)

家具や楽器の材木として使用される高級部材です。
材質は軽く木目は粗いですが、密度が高く強度があり、耐久性が良くスタンダードな素材です。
個体差は少なく仕上りが美しいのが特徴です。赤茶色からこげ茶色まで、種類も豊富です。表面はなめらかで手にしっとりとなじむやさしい質感です。

籐(トウ)

熱帯のジャングルに自生し、幹に枝はなく竹に似た節があります。
丈夫で軽く弾力性があり繊維質が強く、傷も目立ちません。椅子などの家具やステッキなど工芸品に利用されます。素朴な温かみがあり、味わい深い素材感を楽しむことができます。
インドネシアなどから長い姿のまま輸出され、厳選されたものが曲げ加工されます。
傘ハンドルの中では硬い部類に入ります。繊維が細かく軽い素材で、尚且つ折れにくいという利点もあり、特に紳士傘に幅広く使われています。

エゴノキ

日本、中国の山野に自生する落葉小高樹で、鈴なりの白い花を咲かせ「ちしゃの木」「ジャパニーズ・スノウベル」とも呼ばれています。
堅く良質な木肌のため、ろくろ細工、玉突きのスティック、樽の呑み口、算盤、材の色が薄いので色付けするような用途の将棋の駒、こけしなど木工品に向いている素材です。
皮を剥いて濃い目の茶色や薄茶に塗装したものや、焼き目を入れたものなどバリエーションがあります。樹皮を剥いたものをそのまま活かした白木調のものが「剥き(むき)えご」、バ-ナーで焼き色をつけアンティーク仕上げにしたものを「焼きえご」ウレタン加工で艶出しをしたものが「塗りえご」 丁寧にブラウン塗装をしたものが「茶えご」と呼ばれています。
枝を曲げ加工していますので、手元の表面にシワやひび割れのようなものが生じる場合がありますが、それもこの素材の特徴となります。
とても味わいのある素晴らしい素材ではありますが、楓(かえで)と比べて天然樹ゆえの個体差が大きく、ロットにより太い細い重い軽いの差が出やすい樹木です。

マラッカ籐

マレーシア、マレー半島⻄岸のマラッカ海峡に⾯した港湾都市から輸出される周辺地域特産の藤の茎(マラッカケイン)です。熱帯地方の森林に自生し、幹に枝はなく節は竹に似ています。
籐の一種で独特の表皮をもっています。軽くて丈夫なのでステッキなどにもよく使用される素材です。
表面は気持ちの良いさらさらとした質感が特徴的。色味の濃さや斑紋の入ったものなど個体差があります。
一節の間が長いものほど良いものとされ、杖・ステッキに使われる120センチ以上のものは非常に少ない稀少材です。

コンゴ

ヨーロッパ原産のやわらかいつる性の植物の総称です。若い時期に傷を入れて盛り上がった独特の節を作ります。
握ったときの節のゴツゴツとした手ごたえが癖になります。見た目に特徴があり、一つとして同じ形のものがなく個性が際立つ手元です。
シンプルな傘に合わせたものでも存在感がアップします。

ヒッコリー

北米産のクルミ科の広葉樹。重硬で強度にも優れており、特に衝撃吸収力が大きい素材です。
古くからゴルフのウッド、スキー板、工具の柄などに利用されてきました。全体的な色味の濃淡や特徴的な木目に個体差があります。
手触りの素晴らしさは 他の木材の追随を許さない完成度で 傘ハンドルとしては最高級クラスです。
出来栄えにはかなり個体差がありますが、重厚感があり総じて太くてしっかりした造りのため、ベーシックな傘でも貫禄や格式を与えることができます。
グリップが大きめで太めゆえに、本体とのバランスが釣り合って、不思議に持ちやすく感じます。

アッシュ(タモ)

トネリコ属の広葉樹で、東北地方から中部地方にかけての温暖な山地に自生しています。
強靭で衝撃に強く、すぐれた弾力性や粘りをも持ち合わせ、日本の伝統木材として古くから建築材や線路の枕木、楽器またバットやラケットの枠、スキー板、ボートのオールなどにも幅広く使われてきました。
無垢材として有名ですが、あえて皮付きのまま加工することが多く個性的な風合いを楽しむことができます。

さくら(チェリー)

日本の象徴ともいえる落葉広葉樹。加工性、着色性に優れ、磨くと美しい光沢が出ます。
地面から生え出る株から株分かれした幹を使用し“曲げ”にて加工。風合いを生かすため、クリアー塗装などせず、無垢の状態のため、しっとりとした手触りとチェリー独特の皮感が楽しめます。
新品の物は、とてもよい香りがします。
表面に独特の凹凸感があり、個体差があります。わりと太めなハンドルしか製造出来ないので紳士傘向きといえます。

ヘーゼルナッツ

欧州原産のカバノキ科セイヨウハシバミの落葉低木。樹皮は灰褐色。大きな木でないため建築用、家具用の用材には不向きですが、材質は軽い割に硬く折れにくいため、英国では古くから杖・ステッキ材の他、釣竿、柵材、洋傘の手元、工具の柄になどにも用いられてきました。
個性的な表皮を活かし、あえて皮付きのまま加工することが多いです。
また、住宅を落雷から守る、不思議な力があると伝えられています。

欅(ケヤキ)

古くから寺社仏閣建築の建材にも使用された木材で、広葉樹の中でも最高ランクと呼ばれるものです。
高さ50メートルに達する大木を伐採してから歳月をかけて寝かせたものに塗装加工を施しています。
傘ハンドルとしては珍しいもので希少価値もあります。表面は硬質で触りも良く、疵もつきにくく耐久性も良く、縦に入った斜め縞の杢目が特徴です。

モチノキ

櫛や版木に用いられる材木で、サークル型やアニマルヘッドに手加工してハンドルに仕上げたりします。倒すなど衝撃には弱いので、その点は注意が必要です。

カスターニョ(チェストナット)

栗の木を英語名でチェストナットと呼びます。樹皮の色は暗褐色。材質は強度、耐久性、耐湿性に優れ木質にはタンニンを多く含み、腐りにくく、虫害に強い特性を持っています。
そのため古くから家屋の土台や柱材、鉄道の枕木、銃床、杖・ステッキなどに使用されています。

【参考】洋傘ハンドルの変遷

昭和25年発行の「日本洋傘歴史と名鑑」や昭和54年発行の「東京洋傘産業史」に過去の洋傘ハンドルの変遷が書かれていました。現代ではあまり見かけないタイプの手元もあり、興味深いところです。

国産手元舶来手元
慶應年間木製彫刻加工、鹿角、犬首、水牛角に彫刻
明治時代

 

櫻、楓、椿、山椒、山櫻、ハリ、などの彫刻や塗り

アラシ彫、牛角、自然木ヤキ製、象牙頭、鹿角の彫、柄の頭につがいの亀や猿・兎・果物の浮彫り

珊瑚、黒檀、モッコク、アカザ、紫檀、檳榔樹、棕櫚、ツゲ、七宝製、骨製品、螺鈿、瑪瑙、タガヤサン、ネヂの木、

ドイツ、フランス製の彫刻水牛角手元、イタリア製セルロイド、ガラス製、蝶貝細工の水牛製品、曲がり手元

陶器製、銀を主材とした金属製の犬首、鴨首、鴨脚玉握り、棕櫚竹の趣味曲がり、南洋産の自然木(コンク)

大正時代合成樹脂、透明、セイルロイド、合成金製、ヂュラルミン、黄銅製、メッキ製、ニューム製、セルロイド、その他
昭和時代セルロイドは学童男物

婦人用はアルミ鋳物製

ユリヤ、尿素透明版材料、アセチロイド、風防ガラス、寒竹、楓、梨、椿、アクリルに金属金具をはめ込む、パール頭軸次、軸エリア成型手元、インデクションの樹脂成型、和牛角、ABS樹脂によるメッキ製品、アルミ加工品、その他

尿素樹脂の圧縮形成、アクリルパール版注型版、鼠パール版、ビニール巻、真鍮のプレス物、アルミニュームの挽物

まとめ

昔に比べると、現在のハンドルはあまり細かい細工はせずに素材の特性を生かした形になっているようです。しかしながら傘を人間に例えた場合、ハンドルは顔にあたる部分と言われていますので、現代風に意匠を凝らした特色のある形のハンドルも見てみたいところです。

また、今回は自然から採れるものを材料としたハンドルを紹介しましたが、その他にもプラスティックや金属を材料としたもの、合皮で覆ったもの、など様々なタイプがあります。
今お持ちの傘のハンドルをチェックしつつ、その時の気分やTPOで使い分けられるように、いろいろな種類のハンドルを揃えてみてはいかがでしょうか。