俳句は江戸時代、短歌や和歌は古墳時代からあるといわれています。
昔からあるこれらの歌に「傘」という言葉が入っているものも少なくありません。
歌のどのような場面で使われているのか、を知ることで傘に対する認識が変わり、雨の日の生活に変化が生まれるかもしれません。「傘」をきっかけに感性をアップデイトしてみてはいかがでしょうか。
今回は、「傘」が入っている歌をセレクトしましたのでご覧ください。傘マニアからみた一口メモ付きです。
傘 × 俳句、短歌、和歌
そもそもの質問ですが、「傘」は季語になる?
答え:「傘」は季語にはなりません。
「砂日傘」はビーチバラソルのことになります。「日傘」がつけば、夏の季語。
「夕立」「春雨」「五月雨」「時雨」など、雨を表す季語と一緒に使うのが一般的です。
ちなみに俳句に季語は必須ですが、短歌は必須ではありません。
「傘」が使われている短歌
大松達知 フリカティブ
妻の傘にわが傘ふれて干されゐる春の夜をひとりひとりのねむり
一口メモ:雨傘は使った後でよく干してからしまわないと、においやカビが発生することがあります。
正岡子規
春雨の しのぶがおかにぬれて咲く 櫻をいづる傘の上の花
一口メモ:傘のハンドル(手元)には桜の木を使ったものがあります。桜の花が咲く時期に桜(チェリー)の手元を合わせるのは粋ではないでしょうか。
俵万智 サラダ記念日
サ行音ふるわすように降る雨の中遠ざかりゆく君の傘
一口メモ:サシスセソのどの音が雨の音に近いのでしょうか?雨は視界が悪くなります。小さな子供が使用する傘は、まわりが認識しやすい白や黄色など明るい色がベースの傘が目立ちます。
岡本真帆
ほんとうにあたしでいいの?ずぼらだし、傘もこんなにたくさんあるし
一口メモ:出先で雨に降られるとついコンビニで傘を買ってしまうと思います。エコではないし、置場がかさばりますのでお気に入りの軽量折りたたみ傘を持って出かけるようにしましょう。
岡井隆 「禁忌と好色」
歌という傘をかかげてはなやかに今わたりゆく橋のかずかず
一口メモ:大人の男性の傘というと黒や紺など落ち着いた色が定番ですが、気分を変えて定番以外の色やデザインを使ってみてはいかがでしょうか。気分が上がるかもしれませんね。
斎藤茂吉 「あらたま」
いばらきの浜街道に眠りゐる洋傘(かうもり)売りを寂しくおもふ
一口メモ:「洋傘」と書いて「こうもり」と読ませるとは、「本気」と書いて「マジ」と読ませるようなものですね。これまで傘を買うときは百貨店や専門店、量販店などのお店に行って買うのが中心でしたが、インターネットで買う人も年々増えてきています。
熊谷純『真夏のシアン』
太陽へあなたの傘を広げれば昨日の午後の雨がにほへり
一口メモ:傘を干すとき、直射日光は避けて日陰に置く方がいいです。傘の生地が変色してしまう可能性がありますので。
「傘」が使われている俳句
長谷川櫂
梅雨の傘 たためば水の 抜け落つる
季語:梅雨(6月頃)
一口メモ:撥水効果は傘の生地が汚れたり、皮脂がついたりすると落ちてきてしまいます。使用後に傘の表面を水で洗い流したり、傘をたたむときに汚れた手で生地をベタベタ触らないことで撥水効果が長持ちします。
傘のメンテナンスの方法については以下の記事をどうぞ
飯田蛇笏
鈴の音の かすかにひびく 日傘かな
季語:日傘(夏)
一口メモ:日傘を使うことで全身の体感温度が1~2℃低下し、頭部の体感温度が4~9℃低下するという研究成果があります。熱中症にならないために日傘を活用しましょう。
高浜虚子
秋雨や 身をちぢめたる 傘の下
季語:秋雨(秋)
一口メモ:秋雨というと弱い雨が長く続くという印象がありますが、秋は台風の季節でもありますので比較的傘をよく使う時期となります。傘にはいろいろとサイズがありますので、自分の体のサイズと雨量に合った傘を使ってなるべく濡れないようにしましょう。
小泉八重子
干し傘の ふと飛んでゆく 芒種かな
季語:芒種(夏)
一口メモ:芒種(ぼうしゅ)は今の6月上旬にあたる24節気の一つです。そろそろ梅雨になりますので飛んで行った傘を回収するか、見つからず無くなってしまった場合は早目に傘を用意しないとならないですね。
筑紫磐井
騙されて 芒種に傘を 持ち歩く
季語:芒種(夏)
一口メモ:晴雨兼用傘を持ち歩くようにしておくと、晴れた日には日傘としても使うことができるため、雨が降らなくても活用できます。
峰尾北兎
傘立てて 穀雨の雫 地に膨れ
季語:穀雨(春)
一口メモ:穀雨(こくう)とは今の暦で4月20日ごろになります。新緑が鮮やかな時期ですが、そんな緑に合う傘のコーディネートをしてみてはいかがでしょうか。
星野立子
ひらきたる 春雨(はるさめ)傘を 右肩に
季語:春雨(春)
一口メモ:春雨傘といえば、石川さゆりに「女 春雨破れ傘」という歌があります。破れ傘という植物はありますが、現代の洋傘ではボロボロに破れるまで使用することはないので、実物をなかなか見かけることはないですね。台風の後に道ばたに捨てられている壊れたビニール傘は見かけることがありますが。
小林一茶
水無月の 空色傘や 東山
季語:水無月(夏)
一口メモ:水無月は今でいうと7月頃です。このころは日差しがかなり強いので日傘を活用して遮熱・遮光を心掛けましょう。日傘はその目的に合わせて、「熱中症予防には、遮熱加工」:「紫外線予防には、UVカット加工」:「まぶしさ予防には、遮光加工」がされています。
日傘の効果についてまとめた記事はこちら
高田風人子
戻り来し 台風に傘 取られしと
季語:台風(仲秋)
一口メモ:日本では台風は風速18m/s以上を指します。実際には、風速10~15m/sの「やや強い風」でも傘をさすことは難しいでしょう。台風の時に傘を使うと壊れたり飛ばされたりして危険ですので、そのときはレインコートを使うといいでしょう。
強風と傘の関係に関する記事はこちら
与謝蕪村
化けさうな 傘かす寺の しぐれかな
季語:しぐれ(冬)
一口メモ:お化けになりそうな傘とはどのようなモノでしょうか?唐傘お化けもボロボロの傘というわけではないので、古さや年季を感じる和傘といったところでしょうか。唐傘お化けとは別に傘を頭にかぶった雨降り小僧という妖怪が日本にいるのは知ってますか?
傘のお化けについて紹介した記事はこちら
傘が使われている和歌
『さして行く 笠置(かさき)の山を 出でしより あめが下には 隠れ家もなし』
掛詞(かけことば):ダブルミーニング、いわゆるダジャレです。
同じ音で意味が異なる言葉を使っています。
太平記で笠置山が陥落し、雨の中で脱出を試みた後醍醐天皇が捕縛される直前に、雨をしのぎながら休んでいる時に、詠んだ歌です。
この歌には三つ掛詞があります。
一つ目は『さして行く』
。
通常の使い方では、どこかを目指していく状況を指す言葉です。この場合ですと、「安全な場所を探しながらも目指している」となります。それと「傘をさす」を掛けています。
二つ目は『笠置の山』
。
笠置(かさき)はご存知の通り地名です。それと傘を掛けています。
三つめが、『あめが下』
。
あめ(天)が下は、この世の中(天下)という意味です。それに雨の下を掛けています。
まとめ
「傘」という言葉が入った俳句、短歌、和歌を紹介しました。
傘は昔から身近にあったので新旧いろいろな作品がありました。傘を一つの道具として、そこから起こったことを読んだ作品から、傘の持っているイメージである「護る」「庇護する」を意味に含ませた作品などさまざまです。
今度、傘を使うときに一つ作ってみてはいかがでしょうか?
※「傘」、「パラソル」という言葉が使われた詩(島崎藤村、室生犀星、中原中也の作品)についてまとめた記事です。